09
それに、とトウガンさんは続ける。
「ワシら夫婦に子どもは息子しかいない。
だから君を見ていると、"自分に娘がいたらこんな感覚なのだろうか"と思ってな」
ヒョウタさんって何歳なんだろう?
ビックリするほど歳は離れてはないと思うから、私くらいの娘さんがいても別段おかしくはないか……。
「私、小さい頃からシングルマザーの家庭で育ってきたので父親がいなくて。
だから今こうしているのも、家族で外食してるみたいで楽しいです。
お父さんがいたらこんな感じなのかなって」
普段ふたまわり以上年上の人とご飯食べることは無いし、元の世界では1人だったからなぁ。
お母さんは仕事が忙しくて、遅くまで働いてたし。
"父親"と呼べる人と過ごしたことがない私にとって、トウガンさんと一緒に食事するこの時間は感慨深いものがあった。
「……そうか。
ワシもな、息子にはそろそろ良い人を見つけて欲しいと思っているんだが……。当の本人は全くその気が無いみたいでな」
すると突然、トウガンさんがパッと何か閃いたような表情になる。
「そうだ! レイナ君、ヒョウタと付き合って見る気は無いか?」
「ゴフッ!?」
思いも寄らない斜め上の発言に噎せてしまう。
何とかラーメンを噴き出すのは阻止した。
「な、何言ってるんですか!?」
「見たところアイツと歳も近いだろうし、何よりポケモンたちに慕われているんだ。
君であればアイツの嫁に申し分ないと思うんだが、どうだね?」
「どどどどうと言われましても!?」
私とヒョウタさんじゃ釣り合わないよ!
ヒョウタさんはイケメンだからともかく、私は美女でも何でもないからね!
というか全国のヒョウタさんのファンを敵に回しそうで怖い!
(それに……)
ふと脳裏にナオトの顔が過ぎる。
って違う! ナオトとは友だちであって!
「ダメだよトウガンさん。レイナにはナオトがいるもん!」
「ちょっと笑理!」
今だけはその素直さがちょっと恨めしいよ!
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