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黙って歩く幸矢の後を追って辿り着いたのは、手芸用品店だった。

(幸矢が手芸……。意外と可愛い物が好きとか?)

ちょっと聞いてみようかな。

「幸矢って可愛い小物とか好きなの?」

「いや……。俺が欲しいのは既製品じゃない」

その言葉の通り、幸矢はぬいぐるみなどのハンドメイド品コーナーを突っ切っていく。

ようやく足を止めたのは布地やアップリケ、刺繍糸などが陳列された材料のコーナー。

それまで空っぽだったカゴの中に、色とりどりの刺繍糸が入れられていった。

(作る方が好きなのか……)

趣味とか無いように思ってたけど、違ったみたい。

刺繍糸を見ると元の世界にいた頃のことを思い出す。

友達と一緒になってミサンガとか作ったなぁ、懐かしい。

("元の世界"、か……)

いつかはみんなに話さなくちゃいけない。

私が別の世界から来た人間だってことも、自分が時の神子でディアルガと一緒に時間を司る存在だということも。

(でも……)

まず、みんながこの話を信じてくれるのかすらどうか分からない。

(信じてくれてもくれなくても、みんなとは一緒にいたいな……)

そう思うのは、それだけこの世界に馴染んできているってことなんだろう。

元の世界に未練が無いわけじゃない。

でも來夢たちと一緒にいるのが当たり前になっている今、みんなと離れることの方が嫌だった。

(そもそも、私がこの世界に来た理由って何?
"時の神子"であることが関係してるの?)

……頭の中がこんがらがってきた。

"考えないようにしよう"っていうのは通用しない。

もう、どうすれば良いのか分からなくなっていた。

この世界に来る前の私は、至って普通の女の子で。

平凡な日常の中で大人になって、年老いてくものだと思ってた。

でも現実は違っていて。

架空の世界だと思っていたこの世界に来て、自分が"神子"という存在であることを突き付けられた。

自分が何者なのか……何もかもが分からない。



("私"は……何者なの?)



この葛藤は、会計の準備が整った幸矢に声を掛けられるまで続いた。


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