07

月が天高く上った、真夜中──。

私はベッドの上でモゾモゾと身じろぎする。

あの後"どっちがベッドを使うか"の言い合いを再開した私たちに、業を煮やした緋色君に「1つしか無ぇもんは仕方ねぇんだから2人で使え!」と一喝されて今に至るわけだが……。

(ね、眠れない……!)

私のすぐ後ろには、ナオトの背中。

ピッタリと触れ合っているそこから、彼の体温をダイレクトに感じてしまう。

「……起きているかい、レイナ?」

突然ナオトに声を掛けられて、思い切り肩が跳ねる。

不可抗力ということで許して欲しい。

お互い背中合わせのまま、振り向くことなく会話を続ける。

「う、うん……起きてるけど……。どうかした?」

「前々から感じていたんだけど……。
君と初めて会ったあの日、君のことを初対面だと思えなかったんだ」

「え……?」

ナオトの言葉に、さっきまでの恥ずかしさも忘れて目を見開く。

「どういうこと?」

「何て言ったら良いのかな……。
初めて会った気がしなかったというか、君に対して懐かしさを感じたというか……。
君はどうだったのかな、と思って」

「……実は私もね、初めて会った感覚がしなかったんだ。
確かに初対面のはずなのに、何故かすごく懐かしかった。
それに……少し悲しくもなったんだよね」

「悲しい……?」

彼の問いかけに小さな声で「うん」と返す。

初めて会ったあの日。彼の顔を見た瞬間に湧き上がってきたのは、懐かしさと悲しさだった。

どう言葉にしたら良いのかよく分からない。

あえて例えるなら……嬉しい気持ちと謝りたい気持ちが入り交じったような、複雑な感情だった。

「それは……どこか複雑だね。
でも、あの時の僕も同じ感情だったよ。頭の中で"ありがとう"と"ごめん"のフレーズが浮かんでは消えるんだ」

「もしかしてさ……私たちが覚えてないだけで、本当はどこかで会ってるのかな?
そうじゃなきゃ、そんな感情になるなんて思えなくて」

「そうかもしれない。
……ねぇ、レイナ。こっち向いて」

衣擦れの音と一緒にそう言われ、私も恐る恐る寝返りを打つ。

目の前のナオトは、今にも泣きそうな笑顔を向けていた。

おもむろに手を伸ばして私の頬を一撫でした後、そのまま優しく抱き締めた。

「ナ、ナオト……!?」

「ごめん、今夜はこうさせて……。
……あぁ、やっぱり君といると落ち着くよ。
"ずっと会いたかった"と、"こうしたかった"と思う自分がいるんだ。
本気で嫌なら抵抗してくれて構わない。
でも、少しでも嫌じゃないと思ってくれるなら……。
このまま君を抱き締めて眠ることを……どうか許して欲しい」

震える声でそう言われては、嫌とは言えない。

それに私も私で、"会いたかった"、"こうして抱き締めて欲しかった"という気持ちが溢れているのも事実だった。

まるで、"私であって私じゃない誰か"の想いが流れ込んで来てるかのように。



ナオトの温もりに包まれ、私は微睡みの中へと沈んでいく。

身を寄せ合って眠る私たちの枕元で、あの青い光が見守るように瞬いていたことに気付かないまま──。


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