02
建物の中に入ると、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
鍋をかき混ぜている男の子や、出来上がったポフィンを見て満足そうに笑うお姉さん。
老若男女様々なトレーナーが思い思いのポフィンを作っている。
「こんにちは! 初めてのお客様ですね?」
受付の女の人が、私を見てにこやかに声をかけてきた。
「あ、はい。ポフィン作り教室の記事を見て来ました」
「分かりました! では材料と道具を準備しますので、少しお待ちください」
女の人の背中を見送り、辺りを見回す。
するとその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「混ぜるスピードが遅いぜ。それじゃあ鍋底に焦げ付いちまう」
「えぇっと……じゃあ、このくらいか?」
「あ、バカ! 今度は速過ぎて零れてんじゃねぇか!」
どこからどう見てもポフィン作りに四苦八苦してるナオトと、そんな彼に半ば呆れ気味の緋色君だった。
ナオトは料理ができないって聞いてたけど、ちゃんと練習しようとしてるんだ……。
ってちょっと待って、何か焦げ臭くない?
「……また焦がしてしまったな」
「ほーら言わんこっちゃねぇ……」
2人の目から光が消えてる……。
そっとしておこうかと思いつつ、いたたまれなくなってきた私は思い切って声をかけた。
「ナオト、緋色君、久しぶり……って程でもないか」
「お? 何だ、レイナに誠士じゃねぇか。
お前らもポフィンを作りに来たクチかい?」
「レイナ……!?」
私たちに気付いた瞬間、ナオトはさっきまでかき混ぜていた鍋を背後に隠す。
そのスピードたるや、凄まじいものだった。
「うん、そんなとこ。ナオトは料理の練習?」
「あー……うん。ポフィンは煮詰めて焼くだけだって聞いたし、僕にも作れるかと思って……」
「けどコイツ、もう3回は焦がしてるぜ」
「なっ……!? バラすなよ、緋色!」
顔を真っ赤にして叫ぶナオト。
「……ごめん、ナオト」
「え、どうしてレイナが謝るんだい?」
「実はさっきの緋色君とのやり取り、見ちゃったんだよね私……」
私のその言葉を聞いたナオトは、膝から崩れ落ちたのだった。
[*prev] [next#]