果実が落ちるとき


 
 「イーノック」
 掠れた声の中に濡れた吐息が響き、名を呼ばれた青年はびくりと身体を震わせた。まるで身体が返事をするような有様に、ルシフェルは知らず知らず口角を上げていた。
 「どうした、イーノック」
 声に笑いが現れていたのに気付いたイーノックは、ルシフェルを少し睨みつけたが気恥ずかしさからすぐに下を向いてしまった。
 旅に出てから早数十年。まるっきり戦士のそれとなったイーノックの身体を見遣る。
 無駄の無い適度についた筋肉。褐色の肌は触れると滑らかでまるで絹のようだった。しかし絹のような美しさだけでなくどこか洗練された強さが感じられた。書記官には不似合いであろう武骨な指も、また彼らしいと言えた。
 そんな彼を、見た目は色白細身のルシフェルが押し倒している現在の状況は、ルシフェルにとってなかなか悪い気はしない光景であった。
 「ルシフェル、」
 叱咤するような口調は、甘さを含んだ荒い呼吸音で全く意味を成さなかった。
 その様子にルシフェルは満たされたような感覚を覚え、思わず出た笑いは喉を鳴らした。
 「なあに、畏れることはない。お前は素直になればいいだけさ。嘘こそ罪ではないのかい?」
 ルシフェルはイーノックの腹に手を伸ばし、そのまま胸へと手を滑らした。
 白い装備を隠すための衣はすでに裂かれたように破れていた。神から与えられた白い装備もほぼ砕けていたイーノックの身体にルシフェルが直に触れることなど容易だった。
 「お前は美しいよ」
 本当ならば。
 傷付く前に甘やかしてしまいたい。私の左手で出来ることなら何度でもやり直して、彼の最善を望みたい。
 けれどルシフェルには解っている。果実の落ちるときはいつなのか。
 「せめて、これくらいはさせてほしいな」
 あくまでサポートだよ、イーノック。そう囁く言葉はどんなときよりも優しい響きを持っていた。



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0727 日記Log

甘やかし熟した時が果実の落ちるころ

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