辛く厳しい砂漠の道。何処までも続く地平線はあまりにも美しいが、同時に終わりの見えない迷い道のように見えた。
 麻の外套を頭まで被り、前へ進むことだけを考える。
 長い長い旅の中で歩くことには慣れたつもりだったが疲労は確実に溜まる。
 足が鉛のように重くなり、引きずることもままならなくなった。
 身体を引きずり、やっとのことで見付けた岩場でイーノックは倒れ込むように岩場に身体を預けた。
 身体に伝わる岩のひんやりとした感触に、ようやくイーノックは安堵し深く呼吸をした。
 「やあ、イーノック」
 蜃気楼のように現れた声の主は顔を見ずとも知れていた。
 「大丈夫か?」
 全く心配している様子など見て取れない態度で、何度も繰り返した言葉を言う。
 「大丈夫だ、問題、ない…」
 言葉を紡ぐのに詰まりかける。やっと落ち着いた呼吸もまた荒くなった。
 ルシフェルは岩に腰掛け、イーノックを横目に見る。
 「そうだイーノック、いいものを持ってきたんだ」
 目を細め、さも楽しいといわんばかりに話す。
 取り出したのはたかさのある透明の囲いで封をされた、赤い花であった。
 「これはブリザードフラワー。半永久的に枯れることのない花なんだ」
 ちなみにこの透明なドーム型はガラスでできているんだ、と嬉々として天使は語る。
 「その、赤い花は…?」
 「ん?これは…薔薇といったかな?高貴な花だと聞いたよ。」
 何故そんなものを私に見せるのだろうとイーノックは不思議に感じた。だがルシフェルはいつも色んなものを見せ私の心を安らげてくれている。今回もそうだろうと思った。
 「見せてくれてありがとう、ルシフェル」
 ふわりと笑いそう伝えると、ルシフェルは少し目を見開き、不思議そうな顔をした。
 「いらないのか?これはお前の為に持ってきたというのに」
 「私の、ため…?」
 その言葉に今度はイーノックが驚く。
 「ああ。あれはいつだったか…この前にイーノック、お前は誰かに花を手向けていただろう?花は送り合うものだ。お前が貰ったっていいじゃないか」
 ルシフェルはブリザードフラワーをイーノックに差し出す。
 この前と言ったって、もう何十年前の話だというのだろう。
 久しぶりに誰かと時の流れを共有している感覚に、イーノックから笑みが零れ、何年振りかに笑った。


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1115 続く

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