志賀×芥川 | ナノ

寝台の住人


 いったい誰が置いたのか知らないが、文豪達が体を休めるための寝床には、猫のぬいぐるみがある。
 紺色、黒色、赤茶。体毛の色も顔も目つきも様々な猫たちは、三つある寝台の枕の横にそれぞれ横たわっている。
 そんな猫達の住処に直哉が入ったのは、まだ日が高い位置にある頃だった。
 侵蝕の度合いが進み、念の為にと司書によってここに放り込まれた。自分としてはまだ何の問題もなく働けるのだが、心配性の司書は直哉の言葉に苦い顔をするだけで、「大丈夫」だとは思ってくれなかった。
 何を云っても無駄と悟り、さっさと休んで早く全快してしまおうと決めた。
 そうして中に踏み込んだ時、直哉の目に真っ先に飛び込んできたのは、紺色の毛をした猫のぬいぐるみだった。しかも、ただのぬいぐるみではない。
 その猫が定位置としている寝台には、先客がいた。艷やかな長い藍色の髪を真っ白なシーツの上に散らばらせ、長い睫毛を伏せ、眠っていたのは芥川龍之介だ。
 昨夜の夕食時から、龍之介の姿はずっと見えなかった。その直前、彼が帰還した時に偶然出迎える形で顔を合わせたが、顔色が悪く、一目で耗弱していることがわかった。そのせいで、どうやらずっとここにいたらしい。
 前世において、白皙の美貌と呼ばれた容姿は相変わらずで、その繊細な造形に思わず目を奪われる。
 その佳人が、今、眠りながら猫のぬいぐるみを抱きしめていた。
 体を横に向けたまま、華奢な両腕でぬいぐるみをぎゅっと抱え込んでいる。まるで子供のような寝方だ。それがやけに似合って見えるのは、彼の美貌のせいなのか、はたまたその抜けたところのある天然さゆえなのか。
 どちらにしろ、直哉は思ってしまった。“可愛い”と。
「普段から、そうやって力抜けてればいいのによ」
 昨夜とは違う、穏やかで血色のいい顔に、こっそりと微笑む。頬を軽く撫でると、龍之介の瞼が震えた。






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