ある日の私とお坊さん
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雨って苦手だ。
電車はいつもより人が増えるし。買ったばかりの傘を濡らすし。お気に入りの靴は汚れるし。
とにかく、とにかく、雨なんて嫌いだ。

「はぁ・・・。」

空から降ってくるのは大きな滴。
そんな空の下の木の、さらに下に立ち尽くしている私。
理由は簡単。
傘が壊れてしまったのだ。

千羽様のお参りに行く途中、突然強い風が吹いて、私の傘はビニール部分がひっくり返ってしまった。
何度も戻そうとしたけど、針金が刺さりそうになるのが怖くて、結局無理だった。

携帯で天気予報を確認し、さらにため息をついた。
表示は全国的に傘のマーク。今日はずっと降るらしい。

「どうしよう・・・。」

走って行けば、せっかくおばあちゃんと作った千羽鶴が濡れてしまう。
それだけは嫌だ。
でもどうすることも出来ない。
私はその場にしゃがみこみ、膝に顔を埋めた。

葉っぱから落ちてくる雨は、とても冷たかった。
そのまま私は眠ってしまった。

目を覚ますと、お日様が顔を覗かせ、雲は消えていた―――なんてことはあるはずもなく、相変わらず雨は大地を叩きつけている。
時間を確認すると、すでに五時を回っていた。
壊れた傘を恨めしく見つめ、手にしている千羽鶴を握った。

「・・・なにをしている。夏実殿。」

突然のことだった。
聞いたことのある声。
慌てて後ろを振り替えってみると、そこにはあの人がいた。

「お坊・・・さん。」

お坊さんは被っている笠を軽く下げると、私の傘に視線を向けた。

「・・・壊れたのか?」

「・・・はい。」

私はちょっぴり恥ずかしくなった。
まさかお坊さんに見られるなんて。
顔が少しだけだが赤くなっているのが、自分でもわかった。

「だめですね、私。よりによってこんな日に傘を壊しちゃうなんて。」

お坊さんから視線を外し、空を仰ぐ。
やはり、雨はやまない。
無言の空間が続き、私がもう一度彼に視線をやると、彼は私の手にしていた千羽鶴を見ていた。

「夏実殿はもしかして、千羽の所へ?」
「え、あ、はい。」

ぎこちない返事を返すと、彼は何かを考えているような表情をした。
そして、口を開いた。

「拙僧が送ってまいろうか。」

お坊さんの言った言葉に私は唖然とした。「い、いや、大丈夫です!」

「しかしこの雨が止むまで待つことは大変だぞ。夏実殿が風邪を引いたら困る。」

さらりと真顔で続けるお坊さん。
もしかしたら、私の顔が赤いことに気付いたかもしれない。

「大丈夫ですよ!ほら、それに送ってもらうなんて、悪いし・・・。」

「ふむ・・・でも拙僧は夏実殿の役に立ちたいのだ。」

お坊さんはずるい。
きっと、私が断らないってことがわかってるんだ。
結局、私はお坊さんに送ってもらうことになってしまった。

「で、でもお坊さん。傘がないですよ。」
「ん?大丈夫だ。」

お坊さんは急に私の腕をつかむと、ひょいと体を持ち上げた。

「おおお、お坊さん!?」

私の体をお坊さんが抱えている。
つまり。これは多分。
お姫様抱っこ。

「夏実殿、しっかり捕まっていてくれ。」
「ええっと、は、はい!!」

恥ずかしさと緊張で頭がパニックになる。
お坊さんは涼しい顔で歩き始めた。
お坊さんの被っている笠のおかげか、雨にはちっとも当たらなかった。
その後ちゃんと千羽様にお参りにをして、二度と傘を壊さないと誓った。


“夏実殿、まだ雨だ。家まで送ろう”

“だ、大丈夫ですううう!!!”

―――――



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