( 2015/04/22 23:34 )
comment

水晶の中にふわりと浮かぶ銀色の美しい毛並みを持った妹は、今日も無意識だろう。ガリガリと社の扉を引っ掻いていた。その姿はまるで現世に未練を持った怨霊のようで見ていられなかったが、月緋にはそれから目を逸らすことはできなかった。

妹は万華鏡を媒介にし妖術を操る。その術は妹にはまだうまく使えず、過去に暴走の結界一つの村を滅ぼしてしまっていた。心苦しささのか、狂ったように人間を襲い始めた妹に、神であり兄である月緋は見ていられず、自分の神社に社を建てそこに妹を幽閉した。その際に妹から人間を殺した記憶を奪い、「幽閉されている理由は、まだ上手く術が使えていないからだ」「術を使いこなせる様になるまでこの社で修行だ」と言い聞かせた。何も覚えていない妹はただただその言葉を信じて今も黙って幽閉されているのだ。
自分をコントロールする修行だと信じ込んでいるはずの妹は何故か寝てる間に夢遊病の様に扉に近づき出てこうとする。体が覚えているのか、外に出ようと扉を引っ掻く妹の体に鈴をつけ、動けば直ぐ自分に伝わるように術を掛けた。何度も何度も外に出ようと試みる妹に雷を落とし扉から離れさせ、気絶させる。何も知らない兄弟は「心苦しくないのか」と妖気をあわらにして己に怒鳴る。お前に何がわかる。自由気ままに外を浮遊するお前に何がわかる。そう怒鳴り返せば「もっと他の守り方もあったはずだ」と悲痛に歪めた顔でそう言った。そんなの、自分にだって解ってる。社に幽閉した時から、分かっていた。分かっていたのだ。だけど、あの時の自分にはそれしか分からなくて今更どんなに謝ったってきっと許してもらえないだろう。


がり、がり、と扉を引っ掻く音が響く。月緋が小さく「雷帝」と呟けば妹の側に青い稲妻が走り彼女を襲う。ビクリと体を震わせた彼女はそのまま床に倒れこみ起き上がらない。いつものことだ。こうやって彼女に稲妻を放ち、気絶させ正気に戻させる。今更どんなに謝ろうが、妹から奪った記憶は戻ることはない。一度だけ聞いた「外に出て、思いっきり空を眺めたい」と言う言葉を思い出しながら、月緋は今日も一人、記憶のない妹に懺悔を続ける。
<<<< トップ >>>>
モドル
(C)彼女の椅子

(C)彼女の椅子


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -