原因はわからないけど
「何やってるのよこの脳足りんッ!!」
「ぐべぁッ!!」
出会いがしらにイリアからグーパンを鳩尾に頂いた。
膝から崩れ落ちた俺にイリアは腰に手をあてながら突き刺すような視線をこちらに向けた。意味も何もわかっていない俺からしてみれば、何もしてないのに殴られたのと同じ状況なので若干イラッとしたが、イリアが意味もなく殴ることなどないとわかっていたので何も言わずに痛みと戦う。
いや、その前に殴るのはやめてほしい。なんであれ怒るにしても泣くにしても手をだすのは些かいただけない。
俺の痛みなど知ったこっちゃないと言わんばかりに眉をつり上げたイリアに、涙目で謝れば、イリアはさらに怒った
「謝る相手が違うでしょ!?もう一発欲しいの!?」
わかった、わかったぞ俺は。イリアが怒ったときに暴力に走る原因はこの村に一人しかいない
なまえだ。
昔からとてつもなく仲がよかったイリアとなまえは、なまえのほうが弱いからかなまえ絡みになると途端にイリアは凶暴化するのだ。思い出したように唸りながらも痛みが引いていくのを待って、それから口を開く。
いや・・・・というか、イリアの暴力の原因である人物がわかったとしても、肝心の殴られた理由というものが俺はいまいちわかっていない。これは駄目だ。わからないことは明かしていかなければ酷い目にあうのは決まって俺なんだから
「なまえ・・・・がどうかしたのか?ていうか鳩尾はやめて本当死ぬ」
「何弱っちいこと言ってるの。なまえがどうしたって?何にも知らないのね!」
「は・・・・?」
「泣いてるのよ、なまえが」
「はあ!?」
唐突に告げられた衝撃的なことに、俺は思わず声を荒げた
泣いてる?泣いてるだって!?なまえが!?
ありえないという思いと、心配と不安と今すぐにでも駆けつけたい気持ちが心の中をぐるぐると駆け巡る
「リンクが原因で泣いてるんだから謝ってきなさい!」
「原因でって、俺何もしてないはずだけど!」
「さっさと行きなさいって言ってるのよ!もう!あのままじゃあなまえが可哀想だわ・・・!」
イリアがまるで自分のことのように顔を歪めるもんだから、リンクは焦る気持ちに拍車がかかってしまって、なまえが居る場所なんて聞くことも忘れて走り出してしまった。そもそもなまえはすぐにふらふらしてしまう性格なので、たとえイリアに居場所を聞いていたとしてもその場にはもういないだろう
走って走って村中を探してみたけれど、誰の家にも場所にもいない
もしかして森のほうに行ってしまったのだろうか・・・・・?あそこは危ないのに!
「なまえ!!」
村を飛び出して森のほうへと向かっていると、途中でコリンに会って森に入っていくところを見たと情報をもらった
止めたのに無視されたとのことだったから、相当何か俺がしたのだ。じゃないと普段から温厚で優しい彼女が無視だなんて、したくても出来るわけがない
しばらく必死になって探していると、森に入ったところで前方に人を見つけた
「なまえ・・・・・!」
「?・・・・・!」
「ごめんなまえっ、俺、何、か、」
息が切れてまともに声すらも出せないままなまえに近づいてなまえの顔を見れば、なるほど。目が赤くはれてしまっている。イリアの言ったとおり泣いていたのだ
心当たりすらないのに罪悪感がわいてくるのはきっと、泣いている相手が愛しいなまえだからだろう
俺の顔を見た瞬間にまた泣き出そうとしているなまえを急いで慰めて、抱きしめた
「なぁ、なんで泣いてたんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「俺には言えないこと?イリアには言ったのか?」
「・・・・・・・・・べ、つに」
「・・・・なんだよそれ。心配したんだぞ」
むっとしてそう言いながら目元にキスを落とせば、くすぐったそうに身をよじるなまえ。どうやら怒りやそういったものは冷めはじめているらしい
ぎゅうぎゅうとなまえが苦しいくらいに抱きしめていると、なまえはそっけなくしていることが馬鹿らしく思えたのか、俺の背中に腕をまわした。温かい体が余計に密着する
「ごめん、ね」
「・・・何が?」
「心配かけちゃって」
少しずつ笑顔になっている彼女を見ていると、怒る気もうせてしまった。つくづく彼女にだけは甘い気がする
けれどそれも仕方がないことなのだ。惚れた弱みってやつだな
悲しんでいた顔を一転、嬉しそうにさせた彼女はふわふわと髪を揺らしながら俺から離れる。それを目で追いながらなまえに、もう一度大丈夫かをたずねた。
そしたらとびっきりの笑顔で「大丈夫!」なんていうものだから、可愛くてつい、泣いてた原因を問い詰めるのも忘れてなまえの体をまた掻き抱いた
(城下町の女の子たちに、嫉妬したなんて、ねぇ)
(言いにくいじゃない?でも本当に、嫉妬しちゃうくらいリンクが好きなの)