← (4/4) →しゃーけど、ほんまに俺が吃驚させられてもうたんはこん直後のことやった。
「
――ま、それ出したるまでは気ぃつけて頑張りや」
「えっ?」
「おもろいこと、ええことばっかしやないやろ? それなりの危険かてあるやろし。第一に仕事やねんから」
「……!」
「まー言える立場でも何でもないけどなぁ……って、うぉい! 何やどないしよった!?」
思うたまま言うただけやのに、何や目ぇまん丸にさした沙絵が俺ん顔見てボロボロボロ〜って涙こぼしよったやんか。
「だっで、初対面の人にぞんなの言ばれだの、初めでなんだぼん……!」
いや、ぼん、て……えぇ〜……。
やら思うてる間にも沙絵は枕に顔を埋めて大号泣。シクシクなんかのレベルちゃう、うわあああああん! や。状況的にショックとかそんなんとはちゃう思うけど、ちゅーてもそれなりの大人やで!? うーわ、どないせえっちゅーねん!
「な、何やよう分かれへんけど、ほれぇ〜そない泣かんでもぉ……な?」
とりあえず何やオロオロするまま背中ぽんぽん、なんかしてみて。何がどう「な?」やねん、やら自分に首ぃ捻りつつティッシュケースから数枚シャッシャッて取って。
埋もれとる顔の上、デコらへんにひらひらさしたればワシャ! てフェイントもなしに取りよるもんやからビクッ! なってもうたわ。
ほいでもってムクて起き上がった思たら、外っかわに両膝折って座りよって。真っ赤んなった鼻ぁすんすん言わしとるから、こら来るな思うた途端に予想通りの
――ちーん!
……マッパやでマッパ。何ちゅー絵ぇや。
ちょっとして落ち着いた沙絵は、少し腫れてもうた目ぇでえらいニコニコしながら言いよった。
「驚かせてごめんね、何かもうすっっっごく嬉しかったもんだから」
「いやまぁ……ハハ、ええけども。ちゅーか何がオマエをそうさしたんや?」
あまりの表現の豊かさに、何や吃驚通り越して笑うてまいながら聞いたれば
――曰く、慣れたとはいえ異文化や、自己主張がモットーの国の強い言葉に疲れてまうこともあると。小っさい編集プロダクションの予算なんか限られとるもんで、やっすいモーテルに泊まらなアカンこともザラ。ほんで夜中に隣から銃声聞こえたり、むっちゃ怖かったこともあると。
ただ実際、仕事で色んなとこ行けてええなぁ言われるんが常やし、確かに好きでやっとるいう自覚かてある。しゃーけど、俺みたくそこも汲んで頑張れー言うてくれる人もおんねや思て感動してまいましたー! いうことらしいわ。
「ね、やっぱ真子も載せちゃダメ?」
「アホか!」
ほんで残念だなぁ言うてすぐ、お腹空いたねー何食べるー? や。
ほんま変な女や思いながら、俺は沙絵がそうめんパスタを作っとる間に、やっぱし接触不良やった洗濯乾燥機を直したった。
――秋。
「平子おまっ、こんな時に旅行の計画か!?」
「アホか、単なる暇潰しや」
訓練の休憩で寄ってきて、俺が見とった旅行雑誌見てえらい怪訝な顔をしよった一護。洗うた顔タオルで拭いながら隣から覗き込んで「いーよなー俺もこの戦い終わったらのんびり旅行でも行きてぇな」やら言いよった。
“ほんとにありがとう、頑張るね!”
“おーほなな、オマエかて女の子やねんからほんま気ぃ付けや”
あの日、何やかんやで泊まってもうた俺は、翌日でっかいバックパック背負うた沙絵を空港まで送ったった。以来何となく、俺はアイツの会社が関わっとる雑誌なんかを買うて目ぇ通すようなった。
今までは見もせんかったページの脇、必ずちょっちょって添えてある『文・○○、写真・△△』の文字。
まだ見っけられたんは一度だけ。比較的こっからも近い国内の観光スポットの記事。滝や湖、歴史的建造物、周辺、マスコット的存在の猿やら。
発展途上レベルや言うとったけど素人目ぇにはそら大したもんで、何や分からんけど妙に誇らしかってんわ。
いきなし電話があったんも、あれから2週間後の1回きり。例の店の目印になるよなモダンな建物が出来とったー! 言うて、まぁたえらい興奮したご様子やって。
「順調そやなぁ?」
「んーでもこっちはシエスタがあって、カフェとか以外は昼過ぎに一斉に閉まっちゃうから。取材の時間が限られて大変だよー」
「何や皆なで一斉にお昼寝かいな、暢気なもんやなぁ」
「でも良くない? あなたも休憩、私も休憩。日本もそういうのあればいいのにねー。あ、もう次行かなきゃ。じゃあね真子!」
しゃーけどレストランやホテルなんかを巡る中、アイツなりに色んなこと感じてんねやいうのは、その数分で充分伝わった。
また逢う機会があるか、正直、それは分からんけど
――「なぁにが『私が天に立つ』や、寝言は寝てから言えっちゅーねん、あんドアホが」
この何やかんや生きにくい世界の、近くで遠くで、飛び回って撮っては書いてして、頑張っとる。
ドォン!
「あーあ、アンタもうちょい加減して戦えや」
オマエん庭も家も、俺が守ったるわ。
−END−
2010.8.12