Garden
洗濯機が壊れた。
ちゅーか破壊された。ひよ里んアホと拳西の喧嘩の巻き添えんなって、粉々にのう。大体、ジブンらが地上おるいうんもスッパーン忘れて、沸いた頭んまま虚化するとか意味分かれへんやろ。
原因はいつも通り、飯の献立。お陰で飯当番に加えて、要らん仕事が増えてもうたやんか。
「……あっつ……」
ただでさえ近くでギャイギャイやられてこっちはええ迷惑やってんに、何で俺がこないクソ暑いなか外出なアカンねん。
――洗濯モンが山盛り入ったカゴなんか抱えて。
……アカン死んでまう。
倉庫から数百メートル足らずしか歩いとらんちゅーんに、汗はぶぁー噴き出すわ、帽子なんか物ともせんよな殺人光線で頭ぁジリジリするわ。オマケに吸い込む空気まで暑い。しかも無風。俺いま絶賛蒸し焼かれ中なんちゃうん。
そら上から行きゃソッコーやねんけど、でっかい洗濯カゴ抱えた空飛ぶお兄サンやで? 絶対アカンやろ。
大体スチーム機能やらイオン消臭やら贅沢言うとらんと、とっとと新しい洗濯機買おやっちゅー話や。誰それがアレとコレ一緒に洗いくさりよるやら、そんなんしとったら水道代高なるやろが! やら。 ぶー! 今の洗濯機はどれも省エネ仕様なんですーバッカじゃないの〜!? やら。
……今更やけど、譲り合いの精神っちゅーモンが致命的に欠けてんねやなぁ、俺ら。
にしてもここ最近、順番に何かしら誰かブチ切れとる気ぃするわ。まるでこないして鳴き喚く蝉や蝉、思いながら、加減も知らんとフルパワーできよるお陽サンを仰ぐ。
「何してんねやろ、俺……」
――それもこれも、こんアホみたぁな暑さん所為や。
無駄に体力消耗せんよう心ん中で悪態吐きながらべろべろ歩くこと、20分かそこら。頬に貼っついた髪の毛はらう気力すらのうなってきたとこへ、ようやっとゴールが見えてきてんやんか。
『WASH空座』
安直な名前んわりに、夏季ん日中は冷房も効いとって、そこそこ設備のええコインランドリー。何やかんやで3度目の俺は、大体の値段や時間、順番待ちやら何やらのローカルルールも学習済み。
「ふぁ〜生き返るなぁ〜!」
心地ええ冷気浴びて思わず間抜けな声が出てもうてんけど、平日の真昼間ん所為か店内はガラガラ。ちゅーてもいくつかごうんごうん稼動しとるとこ見ると、そこそこ需要はあんねんなぁ思う。
「何やどこん家も洗濯機こわれてもうてんねんか? ……って、うわ、そこは埋まっとるんかい」
外出ても暑いだけやし大人しゅう待っとこ思うた俺は、とっとと回して奥んベンチでゴロ寝としけこむ気ぃやってんけど。
――女がひとり、しっかり陣取って昼寝を堪能中やわ。
しゃあない思てとりあえず洗濯機回して、ヨレた雑誌片手にそん斜め向かいの椅子に腰掛けたった。
足組みながらチラて何となしに見ると、ハーフ丈のカーゴパンツにタンクトップいう格好でえらい気持ち良さそに仰向けですーすー寝とる。オマケに何や胸ん上には、読みかけの旅行ガイドブックみたいなんあるやんか。何や盆休みに海外旅行か? ったく、羨ましい限りやのー。
思えば死神やった時も、そない纏まった休みも貰われへん俺らは、時たまこっそり現世遊び行くか仲間と呑むくらいやったし。
時間あってもコソコソ生きとる今は今で、手放しで何かを楽しめるワケもない。まぁ、それなりに騒いだり、時々は人間の女と遊びもするけどな。
やらなアカンことも、向かわなアカン場所も分かっとる。
しゃーけど流石に100年以上、24時間365日、ずっと恨み任せに怒りほとばしらせてなんかおれへんし。正義やら大義名分やら掲げてみたったとこで、もう死神やあらへん俺らにはやっぱし、何やピンとけえへん。
瀞霊廷がザワついとる今、あの眼鏡が何かしら動きを見せよる可能性は高い。長い間、待って待って待って、ようやっとそない兆候が見えたっちゅーんに――
「どーも何かが……足りひんねんなぁ……」
「……ぃっ、けふん!」
「!?」
ぼやー考えるままに零しとったら、いきなし聞こえたそれで弾かれるよに我に返ってんけど。
「けふん! けふん! ……は〜〜〜……」
何や大丈夫か? 思いながら見とる俺ん前で、女はガイドブックのけてからムクて上体起こして。ベンチに跨るよな体勢なって鼻ぁこすりよった後、上げられた顔とバチて目ぇが合うた。
「……」
「……」
「……あー、今のくしゃみ」
「ハァ!?」
なっ、嘘やーん! せやかてどう考えても咳ん音やったで!?
ポカンなっとる俺をよそに、当の女は何や手で口覆うてくあー欠伸して、んんーっ! なんか伸びしよって。
「なんだ、まだ終わってないのかぁ……」
挙句に乾燥機の並びをボー見ながら、ベンチん上に胡坐かいてガイドブック開き出しよったやんか。え、なに? ここてオマエん家やったか? 思てごっつ訝しんでジロジロ見とったら、不意にパッてまた俺ん方見て。
「凄いねその髪、地毛? なわけないか」
うーわ、勝手に自己完結しくさってまぁた下見よった! 何やねん、こん果てしないドマイペースっぷりは! ぶっちゃけちょっとタイプやなんか思たけど、ちょおコレは強烈過ぎてアカン!
いま俺カンペキ顔引き攣っとるな思とったら、「そうだ」言うて今度は何や自販機ん前行って小銭入れみたいなん出しよって。
「何飲む?」
「は、何て!?」
「いらない?」
「や、そうやのうてやな」
「ああ、関西の人なんだ」
……確かにな、いっこ前まで俺「ハァ!?」しか言うてへんかったわ。いやちゃう、言われへんかってん。ちゅーか何やツッコミどころ多過ぎて頭が追っつかれへん。え、今どないな状況なってんねんか?
たまたまコインランドリーで居合わせた女が発した音が、咳やのうてくしゃみやって? ほんで吃驚するほど躊躇のあらへんタメ口で、いきなし飲みモン奢られかけとる俺。え、何で?
いやアカン、止めや止め。
この手のタイプ相手に何やかんや考えても、ええことなんか絶対ない気ぃするわ。
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