Nude Face 4
――12月24日。
終業時間が迫る中、受付カウンターに座る私は、そわそわとした気分を持て余しながら分刻みで腕時計を見ていた。
今夜は浦原商店で、鉄裁さんを始め、喜助さんの甥っ子と姪っ子のジン太くんと雨ちゃんも一緒に、5人で鍋パーティーをする約束。およそクリスマスの雰囲気ではないが、皆なで集まって鍋をつつく楽しさを思えば、きっかけなんて何でもいいような気がする。
あと30分
あと20分
あと15分
もどかしくて、胸に灯る逸る気持ちが少し、くすぐったくもあって。ウキウキのあまり怪しくニヤけそうになる頬の筋肉に力を入れ、先に終業時間を迎えた部署の人たちに「お疲れ様です」と告げ、その背を見送る。
あと10分
もう何度目かも分からない時刻確認で下を向いた時だった。コンコンと至近距離でした控え目な音。受付カウンターに置かれた、少し骨張った細くて長い指の先には、黒いダイヤ型のカフスボタン、少し光沢のあるダークブラウンのジャケットの袖が見える。
「すいません、アポは無いんスけど……取り次いで貰えませんかねぇ」
「……っ!?」
聞き慣れた柔らかい声音に慌てて顔を上げた私は、心臓が止まりそうな勢いで完全に固まった。
「コチラの亜希サン、という方を今夜のお食事にお誘いしたいんスけど」
綺麗な月色の髪を惜し気もなく晒し、小洒落たスーツをパリッと着こなして、渋いワインレッドのネクタイを締めた喜助さんが、魅惑的な笑みを浮かべて立っている。
「……喜助、さっ!?」
パクパクする口から漸く出た私の声は、残念なほど上擦った素っ頓狂なものだった。
「ふふー変っスか?」
「や、そう、じゃなくて……」
「たまにはアタシもお洒落して亜希サンとお出掛けしたァーい! ……って、年甲斐もなく鉄裁サンにダダこねてみました」
そんなイデタチでいながら、オネエ声全開で再現した様子が妙にリアルで、ポカンとした頭が動き出すと同時に盛大に噴出してしまったけれど。
次いで私は敢えて仕事用の笑顔と声色で以って、努めてはんなりと言って見せる。
「……今夜、この私をどちらへエスコートして下さるんですか?」
一瞬、おっ? という顔をした喜助さんは、でもすぐに『ハンサムエロ商人』の名に恥じない妖艶な微笑を浮かべて。
そのままお腹辺りに右手を添え、折り目正しく腰を折って見せた。
「何処へなりと、貴女のお望みのままに」
−END−
2009.12.18
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