Nude Face 1
――どうしてこうなった。
「亜希ちゃんは酒は強いのー?」
そもそも何回目だろう、自分でもいい加減学習しろって話だとは思うけど。
「それカクテル?」
「……スーズトニックです」
千夏先輩の口車にまんまと乗せられた私は、それぞれ忙しい中を縫っての『忘年会』だと信じて疑わなかった。
……ところがどっこい、来てみればしっかり『合コン』だった。
“美味しいもの奢ってくれるらしいから、今日は先輩たちとご飯に行ってくるね!”
恋人の喜助さんの家に行く予定まで変更して、そんなメールを送ってしまった数時間前の自分を張り倒したい。
そんなことばかりがぐるぐる頭を巡る中、不意にテーブルからした鈍い振動音。
「携帯鳴ってるよー?」
……見りゃ分かるって、目の前にあるんだから。
from:喜助さん
12/18 21:32
sub :おやおや
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またッスか。先輩たち
も人が悪いッスね^^
終わる頃迎えに行きま
しょうかー?
-END-
「またハメられた……」という情けないメールを送った私にも、喜助さんは変わらず優しい。だけどその実、こうした横暴極まりない策略に心では盛大に呪詛を唱えながらも、何だかんだ先輩たちが好きな私だったりする。
実際、秘書課という女だらけの環境でありながら私たちは本当に仲が良い。そして先輩後輩という関係に気負うことなく、よく皆でご飯を食べに行くのも事実。こうした不意打ちに、ことごとく私がハメられるのもその為だ。
「彼氏からメール?」
「はい」
何よりの救いは、私が彼氏持ちであることを、決まって相手方に伝えておいてくれること。出会いを求めている面々からすれば敵は減らしたい。私は最初から最後まで『人数合わせ要員』に徹することが出来る。
加えて室長の千夏先輩に至っては、自分が主催か否かに関わらず、言葉通り必ず奢ってくれる。つまり、合コンと伝えられないだけで私は何ひとつ嘘は吐かれていないのだ。見知らぬ男と話す、という無用なオプションは大きいけれど。
「そっかぁ。まー亜希ちゃんみたいな子が彼女だったら放っておけないよなぁ」
今日のメンツの中では一番後輩の私も、次の4月には入社3年目を迎える。
上司を影で支える、いわゆる秘書的な仕事に淡い夢を抱いて入社したはずが、持って生まれた派手顔がたたってかあっさり『会社の顔』へ。
――要するに受付嬢、1ミリも影じゃない。
今日のお相手方は、誰もが耳にしたことのある大手広告代理店製作部門の5名。
乾杯後、ひと通り食べ物をつまんでカウンター席に避難した私の横には、同じように彼女がいるらしい襟足の長いチャラそうな男が張り付いている。だけど私はフルオーダーらしきスーツ、高級時計やネクタイ、その他含めた彼の何もかもに興味が無い。
そもそも、こんな不毛な時間を過ごす双方を揃えてまで、何故5対5の合コンなんだろう。
その上この男、やれ年齢だの(失礼な)、やれ血液型だの(四択で人を推し量るな)、話し相手としてもトークが絶望的。それでも同じ立場同士、楽しく飲むよう努めるべきかなと思い直して調子を合わせてみれば……。
「何型なんですか?」
「何型に見えるー?」
出たよ、ミニクイズ! キャバクラのマニュアルを合コンに応用するなー!
こうして彼は見事なまでに私の精神衛生状態を悪化させてくれる。それに伴い、先のメールに甘えてしまいたい気持ちばかりが募る。
……会いたいなぁ。
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