It's up to you 3
何を出せと言うの? という私の問いに、銀髪男から返って来たのは『嘘以外』というひどく難解な言葉だった。
「嘘以外を流したら、嘘しか残らないじゃない」
「ほんなら、残った嘘をほんまにしたらええやん」
「……意味、分かんない」
嘘は、嘘でしかないじゃない。
「楽しそうに見られたいんやろ? せやったらソレをほんまにしたらええだけのこと、単純な話や」
「……っ、簡単に言わないでよ!」
「アカンなぁ、人ん話はちゃんと聞かな。ボクは『簡単』なんか一言も言うてへんよ? せやけど……」
そこで一旦途切れた言葉は、続いて物凄く近い距離で私の鼓膜を震わせた。
「まー楽しそうに『見える』努力なんかが楽しい思うんやったら、好きにしたらええんちゃう?」
ドア1枚越し、あのにんまりとした何処か不敵な笑顔が透けて見えるような声色。目を見開き硬直した私は、けれどコツン、コツンと遠ざかる彼の靴音にハッ! となって咄嗟に叫んでいた。
「待って、市丸さん!」
――コツ。
「……ギンや」
「ギン……待ってよ……」
それから私は、ギンの助けを借り『ここを出たら嘘を本当にする』という自己暗示を掛け続けた。と言っても、実際にはドアの外で待ってて貰っただけだけど。
それでも私には、つままれる想いに心が揺らいでしまう前に、扉を開けて踏み出した自分をギンに見て貰う必要があった。
店の女子トイレを占拠し、よく知りもしない男を引き止めてまで一体何してるんだろう? という冷静さも、決してゼロじゃない。でもこのまま出たところで私を待っているのは、枯渇して行く自分を思い知るだけの何の生産性も無い毎日。それを思うと、何故かこの奇妙な儀式に何が何でも乗じなくてはいけないような気がした。
「そういやキミも気ぃ付いとるんやろ? ボクなぁ、な〜んや知らんけどあの夫妻にようコキ使われるんよ」
……夫妻、って。
「大抵が酒飲んで泊めて貰うパターンなんやけどなぁ、ふたりしてゲームでボクんことハメてきよるんよ。ほんで罰ゲームや言うて、平気でお客サンのボクに風呂掃除とかさせんねんで〜?」
扉越しに一方的に聞こえて来るギンの声は、ひんやりとした冷たさを孕んではいたけれど、不思議なほど安らぐものだった。
「せやけど2対2やったら勝てるかも分からへんなぁ……今度、冬花ちゃんも一緒行ってくれへん?」
ギィ……
と扉を押し、おずおず出てはみたものの、どんな顔して良いやら分からず顔を上げられない。ギンはそんな私の頭をポンポンとして目線を合わせ、まるで子供みたいに無邪気な笑顔で言った。
「な? ボクと初めての共同作業、しよ」
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