It's up to you 1
――やっぱこうなる、か。
「冬花ちゃん、何飲むー?」
「えーと、じゃあカシオレで」
少し馬鹿っぽいけれど憎めない、隣の浅野啓吾くんという男の子に小首を傾げてニコリとしてみせながら、思う。何も言わずに私の我儘に付き合ってくれちゃってる千夏先輩も、きっと気付いてるんだろうなぁ。
「……私も痛いよねぇ」
「え? 何か言った?」
「え!? あ、何でもない!」
無意識に口をついて出ていた台詞にハッとし、ぶんぶん手を振りながら取り繕う。でも目尻を下げてぽわーんとなっちゃってる浅野くんは、特に気にも留めずに早くも次の話題へ移ろうとしている。
単純でいいなぁと内心苦笑しつつ、リアクション大き目に相槌を打ちながら店員に噛み付いてるリサの方をちらりと盗み見た。
「ちょっとアンタ、2種類しか頼んでへんのにイチイチ復唱せんときゃあ。大体そのバイト敬語――」
あーあ、初対面の男の前で吠えちゃダメっていつも言ってるのに。
人は人、然るべき場面で自分がきちんとしてればいいだけのこと。
「まぁまぁ、ええやないの。『たった2種類』かて間違うてもうたらアカンもんな〜?」
だけどあの銀髪男の嫌味な言い方には、京都人ならではの風刺精神を垣間見た気がして、私はちょっとだけ愉快な気分になった。確か今日の合コンの相手方の幹事だったはずだけど、平気で一番最後に来る自由さ加減は如何にもクリエイターって感じ。
個性が際立つ身なりや頭髪、お金はあっても時間は無い、遊び相手として申し分無いイケメン集団。
それでも、わざと視界に入るようテーブルに置いた光らない携帯が、私に思い知らせる。浅はかな私に掛けられた枷を外す鍵は、やっぱりここにも無い。
――私はまた、ただそれを確認しに来ただけなんだ、と。
よくある話。別に大したことじゃないと思った。
――それで担当にして貰えたらラッキーぐらいの気持ちで。
「自分の『女』を利用する以上、逆に利用される可能性だってあることを肝に銘じておかないと、呑まれるよ」
「大丈夫ですよー私は」
『呑まれるのは私じゃない』
とんだ思い上がり。こんなはずじゃなかったなんて今更。実際に怪我してみなきゃ分からないなんて。いつから私は、そんな救いようのない女に成り下がったんだろう。
でも
だとしたら例外が無いのは、適切な忠告をくれた千夏先輩だって同じじゃないの? あんな大事な日に先輩を泣かせたの、あの人でしょ? タイプ的にちょっと意外だったけど、あの人だって所詮は『男』なんじゃないの?
そうした疑問を抱えながら、白と話しているおかっぱパッツンの彼に私はちらと視線を向けた。
「冬花先輩もこっちで一緒に喋ろうよ〜! ねーねー平子さーん、冬花先輩ってすっごく可愛いでしょー?」
隣の浅野くんがトイレに行ったタイミングで、『先輩の彼氏』と話してた白が私に声を掛けてきた。
「せやなぁ、こない可愛い子と話すなんかオッチャン何や緊張してまうわぁ」
ペアリングのはまった手でわざとらしく頭を掻いて笑う平子さんからは、欠片も緊張した様子なんか覗えない。そもそもこの人、一体ここへ何しに来たの? 先輩のことを監視してる風でもなければ、見せつけるでもないし。私や白の『女の沽券』に配慮はしても、自分の姿勢は崩さないし。
少しして白が席を外したところで、私は敢えてツッコんでみることに。
「平子さん、大丈夫なんですか? 合コンなんて来ちゃって」
出来るだけ他意の無い自然な笑顔を作って、長い指の上で主張し続けるリングを指差してみる。
「おー大丈夫やで。本人かて知っとるしな」
や、知ってるも何も……。
心でツッコミつつ、私の指摘に動揺することなくあっさり返して来た平子さんを、じっと観察。
「へー信頼されてるんですねー! もう長いんですか?」
「んー長いんかなぁ、えーとぉー……5年とチョイチョイいうとこかぁ」
平子さんは片手で煙草をテーブルでトントンし、もう片方の手で指折り数えながら答えてくれた。
「わ、凄い! その間ずっと彼女さんだけなんですか?」
「くくっ、それはそないタイプには見えへんいう意味か? まー実際よう言われんねんけどな」
「あっ、すみません」
「構へん構へん。まー要は心臓なんか1個で充分いうことや」
「……!」
なんか今、さらっと凄いことを聞いてしまった気がするんだけど。
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