act2 4
――12月25日。
「……ねぇ、こういう趣味だったっけ」
「ウリュヒャイねん、ええふぁら黙っふぇ見ひょけっひゅーねん」
まだ暗転もしていないというのに、早くもこれでもかとポップコーンを頬張っている主を見て、私は「もう1個買って来るわ」と立ち上がり掛けた。
が、すぐに腕をグイと掴まれぼすんと座席に引き戻される。
「ヒョアホッ!」
……ポテッ。
挙句、何を慌ててるのやら、ホッ! と同時にスッポーンと口からポップコーンを飛ばした自分までもスルー。関西人たるものそれで良いのか? と思いながら、床のポップコーンと主の顔を交互に見遣った。
――しかし、どうもそれどころではない何かがあるらしい。
あの合コンの日、早くも『俺がチーフや』的な権力を行使する予定を企んでいた真子から、何が何でも25日の夜は空けろと言われた私。幸い今年はイブが会議で、クリスマス当日はボスも家族サービスの為に早く帰るつもりでいる、とのことだった。
久しぶりにふたりで美味しいもんでも食べに行くのかと思いきや、待ち合わせ場所から直で連れて来られたのは映画館。
真子がありがちな季節モノのラブストーリーの、しかも席まで予約していたことにまず瞠目。その理由を明かされないまま指定のシートに座らされ、右手をベタベタの左手でガッシリと捕獲され、今に至る。
程なくして暗転。サーッと幕が開き、お正月や春休みに放映予定の予告がスタート。この時間に買いに行けたのにーと思いながらチラリと一瞥すると、ええから見とけ、と言わんばかりに顎でしゃくられた。
すると、今日これから始まる映画の予告が流れ出して、えっ? と思う。見せ場っぽいシーンが続くにつれ、私の手を握る真子の手にぎゅっと力が篭り、いよいよ頭の中が疑問符でいっぱいになる。
―― 大切な人と、もう一度出逢いたくなる夜 ――
(コレ! このキャッチコピー俺のやねんて!)
(ええ!? …………わ、クサッ)
あまり意味を果たしていないヒソヒソ声に周囲の視線が痛いが、もはや私もそれどころではない。
(やかまし! わざわざ映画館に無理言うて流して貰うたんやぞ!)
(え、そうなの!?)
(……公開は先月からやってんけど、こん予告だけは千夏と生で見るて決めとったんや)
映画の内容は真子のベタなキャッチコピーに相応しい、本当にごくごくありふれた感動ラブストーリーだった。しかも真子ときたら、油まみれの手で私を捕獲したまま本編に入った途端に寝やがった。けれど一週間前の自分たちを思うと、悔しいかな妙に感慨深い想いに駆られてしまって。
今この時の為の今までだった。
横の穏やかな寝顔を盗み見ながら、わりと本気でそんなことを思ってしまったりもした。
「終わったよ、真子」
「アホ、これからやっちゅーねん」
エンドロールを合図に軽く揺さぶれば、半分寝ぼけた真子は握ったまま離さなかった手を見て嬉しそうに、そんなことを言った。
−END−
2009.12.22
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