強さと弱さ 3
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ゴーン……ゴーン……
ホルダーに固定された携帯。それを夏希とふたり、ぼやー眺める。どっか地方の行事なんか、そのちっさい四角ん中でゆらゆらかがり火が揺らめいとる。
地味やけどしとやかなナレーション。わーん、いうよな鐘の音の余韻。そないなコラボが、何ややたら神妙な気分にさせよる。
いつもやったら無駄にテンション上げて皆なとドンチャン騒ぎしとる頃――まぁた新しい年を現世で迎えるっちゅー重たさ、吹っ飛ばすみたく。
しゃーけど今年は、どーせこのまんま迎えてまうならっちゅーことで、とりあえずダンゴ虫の行列から一旦離脱。ちぃとばかしファミレスの駐車場にお邪魔して、あったか〜い缶コーヒー両手にぬくい鉄の塊ん中、夏希とおる。
運転から解放された俺んこと覆いよる気だるさが、何や風呂に浸かった時の心地ええ脱力感を思わせる。
ゴーン……
「……なぁんや、夏希は煩悩少なそやなぁ」
頭の後ろで腕組んでシートに凭れながら、ふっとそない気ぃして言うた俺を、何で? みたく目ぇ丸くした夏希が覗き込みよった。
「いやいや、煩悩まみれだよ?」
「ほな例えば何やねん」
「んーとー……――」
それから夏希は、思いつくまま自分の欲をツラツラ挙げていきよった。
土日祝日休みの友達に会いたい。結婚した友達の子供にも会いたい。起きるのにリハビリが必要なくらい寝たい。キスケさんと。真子の髪の毛一日中触りたい。え、やばい顔定着するからダメ?
猫足のバスタブ欲しい。新しいハサミ欲しい。バリアート講習受けたい。大カップアイス抱え食いしたい。もちろん完食。ワイドになる? ね……。
屋久杉見たい。カッパドキア見たい。サクラダファミリア見たい。祭行きたい。クラブ行きたい。若作りしてミニスカ生足、は厳しいか。
バンジージャンプしたい。鳥人間コンテスト出たい。電車と並走する別れのシーンやりたい。スパイダーマンしたい。そうそうビル街スイング、したいよねー!
ゲームで松田くんを完膚なきまでに倒したい。サングラスオフした愛川さん見たい。ひよ里ちゃんにエクステ付けたい。んでアゲ嬢ばりに盛り盛り。斉藤さんのとこの入院保険? 分かった入る。
やったらノールールなそれに途中ツッコんだり、呆れたり、おー分かる分かる! やら言いながら笑うててんけど――。
「でもやっぱ、ずっと髪を好きでいたい、が一番かなぁ……」
「何や、そこは不動とちゃうんか」
「いやぁ、何の迷いも無く好きでい続けるのは……ぶっちゃけ結構難しい……」
ゴーン……
おいおい何や段々声ちっさなったでぇ? 思て、今度は俺が夏希の顔を覗いたったら、何でかえらいバツの悪っそな顔しとるやんか。
「まぁ仕事にしとるとなぁ……ちゅーか、何でオマエまでゴーンいうテンションなってんねん!」
「や、何かものっそい情けないこと言ってる気がしてきて……全部自分で決めたことじゃんねぇ? っていう……」
「アホか、自分で決めたから迷うんやろが」
――人ん所為にするより何倍もマシや。
ちゅーても、そない凹んだ顔見せよるとかレアやなぁ思うで? 思うけどもや!
「……あと3分で立ち直らんと承知せえへんで、なっちゃん」
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「ええ!? 何それ」
「やかまし、カップラーメンかて3分で美味しゅうなれんねんぞ! 頑張らんかい!」
「えーとえーと……では美味しくなれる調味料的なオモシロ話題を下さい」
ペコリ。
「ちょ、ハァ!? オマ、そこで無茶ぶりとか無いて!」
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「「うあぁ〜〜〜!!」」
何やおかしな焦燥に苛まれてアワアワなってもうた俺らをよそに、当たり前に時間は過ぎて行きよる。
「えと、大丈夫! 元気! 超元気!」
「アホ、そんなんもうどうでもええねん! 何やこう、もっとそれらしいことはないのんかい!」
ぺちーん!
「いって! んーとんーと……あ、いつもありがとう」
ペコリ。
「は……?」
「あれ? 真子の言うそれらしいことって、こういうことじゃなかった?」
全く別ん言葉を予想しとった俺は、突拍子もない夏希の「ありがとう」に一気にポカンなってもうた。
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「真子は沢山のものをくれるけど、私から何も奪わないでいてくれるから」
何を? て説明求めてんけど、本人「んー上手くは言えないんだけど……」やら言いよるもんやから俺は時間も忘れて更にハァ? なってもうた。
確かに俺は夏希のことが好きやけど、そんなん言われるほど特別なモンやった記憶も無いし、『奪う』なんかもっと分かれへん。
そないな俺ん表情読み取ったんか、「てか物じゃないよ?」言うて夏希がくすくす笑いよる。
「んーまー真子には分からなくても、私にはそうってことで……へへ、だからありがとう」
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―明けましておめでとうございます、20XX年の幕開けです―
「……明けちゃった、ね」
自分の一年振り返るんやのうて、照れ臭さ圧して一緒おる俺に真摯に礼なんか言いよる。そないな夏希のこと、殆ど夢中で掻き抱いて。
――ここ現世で俺は、101年目の年を迎えた。
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