強さと弱さ 1
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「……アカン、ぜっっっぜん進まれへんわ」
「〜……ぁふ、ほーだねぇ」
欠伸混じりの腑抜けた声出しよった助手席ん夏希をジト目で見たったけど、どうにも眠たあてしゃあないらしく、まぁた口元に手ぇ当てとる。
昨日が仕事納めやった夏希は閉店後に忘年会で午前サマ。ほんで昼前に起きて、酒残っとるとこ頑張って大掃除に取り掛かったんはええけど、気合入れすぎたんか『腰がビッグバン』やらで、夕方には張サンとこ駆け込んどったらしい。
アジトで皆なと蕎麦食うてから電話した俺が、例の弟ん車でアパート下に着いたとこや聞いてから十数分後。運転席で力尽きとったとこ、窓をコンコンしたった俺を職質と勘違いしよった夏希は「ふあ、すいません!」やら言うて飛び起きよった。
揉めたり頑張ったりの後に落ちてもうたり、風邪引いとったり、作業中やら駐車中やったり。見境無いガキならともかく、迂闊に手なんか出されへん状況以外やたら滅多隙は見せへん夏希やけど。
仕事から解放されて気ぃ抜けとんのか、トコトンほぐされてもうたんか、そん両方か。とにかく俺て分かった途端ふにゃふにゃなりよったんは、ぶっちゃけ悪い気ぃはせんかった。
しゃーけどそれ以前に危なっかしわ思て、俺が運転したる言うて。
目的地までもうちょいいうとこで13キロの事故渋滞にハマッてもうて、今。
「かーっ! このまんま年越してまうんとちゃうかぁ?」
「〜……わふ、かもねぇ」
「別に寝とってもええで」
「ん、年越すまでは耐える」
ちょっとからかったろ思て口説いたるなんか言うたけど、あれ以来、俺と夏希の間ん空気に目立った変化はあらへん。しゃーけど、寧ろ変に男と女なりすぎてまぁたギコちなくなる方が困る。
何ちゅーか俺んとって『女』の夏希は、言うたら大っきい円の一部みたぁなもんで。他に人間、視点、友達、美容師サン、あとはまーお隣サンとか、色んな要素ひっくるめて「ああ好きやな」思う。
ことはそう単純やないなんか百も承知やけど、何や霧が晴れるみたく視界が開けて自分ん中がキレーに整理された感じするわ。
“ケリついたら聞いて欲しいことがある”
答え求めるでもなかった俺の一方的な告白に、夏希が言うたんはこれだけ。
何やほんまに何か入れたるつもりやったんかぁ言うたれば、まぁた無駄にノリよって「そーそーそー腹の脂肪を移植してねぇ」やら言いよった。真性のアホや。
――長生きも、してみるもんやな。
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「うわ、これ本気で車で年越しコースじゃない?」
眠気覚ましに開けた窓から顔出しとる夏希につられて、俺も反対側を覗いてみた。ゆるうく湾曲しとる国道。連なる赤いテールランプが先ん先ん先までズラズラズラーッ。
「ハァ、先頭で虫好きなお姫サンあたりが誘導でもしとるんちゃうかぁー? これぇ」
「……ドロドロの人に薙ぎ払われるよりマシだよ」
ダンゴ虫気分に浸りながら新年迎えるなんか初めてや思いつつ、座席脇の煙草ん箱に手ぇ伸ばす。
「ひよ里ちゃん、ちゃんと来れるかなぁ」
「フー……まー誰か道づれにする言うてたし、電話かけてくるやろ」
素知らん顔で煙吐き出しながら、俺は内心ニタてほくそ笑んどった――ほんまは誰と来るか知っとんねんけどな。
「オマエこそ、オトンに電話しとかんと大丈夫なんか?」
「あー大丈夫大丈夫。行くとは言ってあるし」
“そうだ、一緒行く?”
俺らが向うとる夏希の実家(オトンの家)は、建築士やっとるそこの主の自宅兼事務所らしい。何の因果かチワワちゃんと行った海ん方のそん家は、曰く屋根? から見える日の出がこれまた絶景なんやと。
あの雨ん夜、夏希の家庭がかーなーり変わっとるちゅーんはざっと聞いてんけど、はっきし言うてあの年齢不詳なオカンだけやなし、揃いも揃うて全員ぶっ飛んどる。
しゃーけど道徳やら倫理云々の前に、大事な根っこがしっかり繋がっとる、めっちゃええ家族っぽいねん。
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