近くて遠い 2
「……またや」
ゲーセンの100円すら勿体無く思えてまうほどシューティングが下手やったひよ里が、もう今までのウチやないで! やら偉そに言いよって。
羅武とさんざ「まぁた始まりよった」言うて笑とったら、案の定えらいムキんなって夏希にメールしよった。
しゃーけど返信かなんか見た途端、半目んなってあからさまに呆れよったもんで、何や? 思て、俺と羅武で両側からヒョイて覗いてみたら――。
from:夏希
11/12 22:04
sub :Re2:Re2:Re:
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もうすぐ着く。ちょい
舞ってて
-END-
「……ぶっ、難易度高ぇ要求だな」
「ほなオマエ、はよ舞わな」
「ハゲが、誰が蝶ちょやねん!」
ひよ里曰く夏希の携帯は元から変換がめっちゃアホな上に、最近反応が悪なってきとるとか。しゃーから急いどる時は、大抵が打ち直さんと誤変換上等で送ってきよるらしいねん。
「こないだなんか『窓側に』が『窓がワニ』になっててんで!? ワニやぞ!? オマエんとこも来よるやろーこんなん」
「あー俺、アドレスとか知らん」
めっちゃ意外そな顔しよったひよ里に気ぃ付きつつも、俺は手元ん雑誌に視線落としてペラペラ捲りを再開した。
――お隣サン同士やねんから、電話とピンポンで充分やろ。
ダーン! ダーン! パァン!
ウ゛ォ゛ォ゛ォッ……
自称『スーパーガンサバイバー(ひよ里)』と、自称『プロアーケードゲーマー(羅武)』がタッグ組んで、何や延々ゾンビ撃ちまくっとる。
胡坐ん中にキスケ抱えてぼやー見とる俺ん横で、夏希はメモ帳にトライバルっぽいデザインを黙々と描いとる。こない銃声やら呻き声がBGMでよう集中出来んなぁ。
やら思とったら、そのメモ見ながら夏希が掴んだ赤マルのパックがクシャて歪んだ。
「あっ……うわーストック買い忘れた!」
そないして叫んだ後、テーブル上にびたん突っ伏した夏希は、か細い声で何や有名な旋律を口ずさみよった。
「あの、すばーらしいー階段をーもーおーいーちー……どー……」
さりげにアルトや。合唱、いや合掌気分ちゅーとこか。
「……買うて来たるからタスポ貸し」
「んー……いいや、ついでにコンビニまで行って酒と雑誌も買って来る。ひよ里ちゃんたちも肉まんかなんかいるー?」
言うが早いか立ち上がった夏希は、さっき着てたムートンのダッフルコートにもう袖ぇ通しとる。
「ウチ、あんまんがええ!」
「ほーい、後はー? 何かあるー?」
……これがここの『日常』やて知ったんは最近やけど、ほんま誰ん部屋か分かれへんわ。
「あー悪ぃんだけど、適当に俺の分も酒頼めっかな」
ここが『バリアフリー』やら言われる意味が、ぼちぼち俺も分かってきた。そら話し掛けたら夏希かてちゃんと反応しよるし、誰かがヤイヤイ言い合うてんの見て笑たりもする。しゃーけど基本、誰がおって何しようが自由。
何や絶妙な酸素体系っちゅーか、そない空間を共有しに自然と人が来よる感じや。男も、女も、オタクも、中国人も、最強ハーモニカ星人も、ひよ里も、久々の羅武――何やかんやで結局、俺も。
「……やっぱし俺も行くわ」
こない流れに呑まれる内に、俺ん中で凝り固まっとった先への気概は、ちんまい綻びから猛スピードでしゅーるしゅる解けて行っとる気ぃしてしゃあない。
しゅるしゅる しゅるしゅる
どんどん解けて、いつか一本の毛糸みたくなってまうかもわからん。しゃーけど一本なっても同し先へ続いとんのが、目ぇ瞑っとっても俺にはハッキリ見える。
寧ろ見通しええ感じになりそやし、そっちのが迷う心配かてあらへんちゃうか、とも思い始めてんけど。
――ほな、そん先は?
「……ハハッ」
ふと、無意識にそんなん考えとった自分があんまりアホらしゅうて妙に笑けた。
タン タン タン
まーアレや、とりあえず全部終わったら皆なで祝杯上げて、ぎょーさん飲んで、シメにラーメン食うて、ほろ酔いええ気分でのんびり帰っ――。
タン。
「あたっ! 顎打った顎! ……真子?」
いきなし俺が階段のド真ん中で止まったもんで、後ろから着いて来とった夏希が俺ん後頭部にガコて顎ぶっけてもうたっぽい。しゃーけど俺は、完全にそれどころやなかった。
……俺は今、何を思うた? どこに『帰る』気ぃやった?
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