彼女の荷物 7
「何やっちゅーねん、ほんまぁ……」
めんどいなぁ思いつつ、重い足取りで地上出てキョロキョロしとったら、脇のコイパーから声が聞こえて来よった。何やどうもそこの自販機ら辺にいてるみたいやんな。
下手に出たら状況見る前に見っかってまうな思うた俺は、周りに人がおらんのを確認してパッと空へ上がってみた。ほんならちょうど向き合うてるふたりが見える位置にアルミバンが止まっとって、アレや思うた。
サッとそん上降りてうつ伏せにびたん張り付いてみてんけど、おお、見えるなぁ〜見える見える! ……ちゅーか、こんなん俺やなかったら出来へんやんけ。大体いつの間にこないキッチリ確認せな! 思わされてんねん、今日俺主役やぞ?
まぁええか思いながら、ようやっとふたりの様子認識した瞬間、俺はがくーん脱力してもうた。あの店長サン、後でぜっったいシバいたろ。何が楽しゅうて、キャップ斜めかぶり男が夏希ちゃんの頬を撫でとるとこなんか見たらなアカンねん!
思うた時やった。
俯いとって表情も見えへんし、何やえらい低い声やって途切れ途切れにしか聞こえへん。しゃーけど確実に夏希ちゃんが言いよった何かで、男ん手がピタて止まりよった。
「……!」
何や目ぇ引ん剥きながら絶句しとる男に、ようやっとスッて上げた夏希ちゃんの顔見て、俺まで固まってもうた。自販機の明かりと前髪留めとる所為で、上からやってもイヤでもよう見えてまう。
凍るよな冷たい目。殆ど無表情やねんけど、ほんまちょびっとだけ口端が上がっとって、何ちゅーか今カッとなったいう感じやない、むっちゃ静謐な怒りの凄味に満ちとる。
“アイツ多分、自分でカタ付けられると思うんで”
どないしよ思うたけど、店長サンが言いはったこと、冷然と罵倒しよる夏希ちゃんの様子からしても下手に止めたったらアカンねやろな。ブチ切れ出しよった男にガン! 打ち付けられてんけど、頬っぺたひとつ動かさへんし。
そっから先、内容はよう分かれへんことばっかしやったけど、とにかく夏希ちゃんは何やケジメ付ける為に戦うてんねや思た。
妙な気分やった。
今かて、俺らが進む先に何の迷いも無い。無いて言い切れる。しゃーけど気ぃ遠なるぐらい長いこと生きてきて。こないして100年以上現世おる内に無意識に目ぇ背けるようなったことも多いいかも分からへん。
バカバカ戦争しよったり、ポコポコ工場建てよった思たら、やれITや、エコやて、とにかく目まぐるしい現世。時間の感覚が違い過ぎる俺らはそないな大っきいモンに適応して生きてくんで精一杯で。正直、そん中の人間1人1人にまで目ぇ向けてられへんし、なんぼ特別な力持っとるいうたかて、それと何か出来るっちゅーことは話が別や。
しゃーから大事なモンは最低限。それ以上何かに揺さぶられたとこで、キャパオーバーなって疲れてまうだけや思うてた。
しゃーけど、あと60年そこらしか生きられへん夏希ちゃんかて、こん世界で夏希ちゃんなりに自分の矜持賭けて戦っとったりしよんねんな。多分きっと、俺のバイト先ん人らも、店長サンも、松田も、斉藤サンも、おもろな張サンも……しゃあない、ついでにこのキャップ小僧も入れといたるか。
大っきい小っさい関係なく、むっちゃ当たり前のこと。せやのに今んなって、ああ、そうやんなーいう実感沸くんは何でなんやろ。義骸の眼球通してめっちゃ色んなモン見てきた気ぃすんねんけど、俺はそれを『俺』っちゅー魂魄にちゃんと伝達してへんかったんやろか。
見てたんやのうて見えとっただけ、なんかな。
まーよう分かれへんけどな、店長サン。夏希ちゃん、アンタの飼い犬やんけ言われてもイヤな顔ひとつせえへんかったで? こないなキャップ小僧に負ける子やないなんか百も承知で、ほんまは夏希ちゃんが見られたないんやのうて、自分で目の当たりにすんがちょお照れ臭かったんちゃうん。
今日の夏希ちゃん、可愛いいカッコしとんのに何やむっちゃカッコええ。ついでに、めっちゃ怖いいうんも付け足しとくわ。アレやな、普段あんまし怒らん人怒らしたらアカンいう典型やんな。
さて、と。
見た感じ今のキャップ小僧にへし折れるワケもあれへんけど、捻挫してもうてもアカンやろ。
「ひっ!? ひらっ、ひひひひらこさぁっん!?」
さっきまであない凄味出しとったくせに、『ひっ!?』に『さぁ↑っん!?』言うたでこの子。期待を裏切らんリアクションしよんねんなーほんま。……おもろいわぁ。
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