彼女の荷物 3
「ウルァァッ!」
ドォォォン!
「よっ……と。オマエ、髪の毛ほんまええ匂いさすようなったなぁ」
「ウルサイねん、こん変態ハゲが! ヒョイヒョイ避けとらんとさっさと仕掛けて来んかコラァ!」
キィン!
「そういや昨日夏希ちゃん来たで、俺ん店」
シュン!
「ハッ、どーせオマエが来てくれ言うたんやろ!」
「アホか、偶然や。店が近いらしいねん。ほんでむっちゃ渋メンな店長サンと一緒やったわ。パッと見ちょっと、短髪の八番隊長サンみたいやってん」
「ハァ!?」
「ま、雰囲気全然ちゃうけどな。何やアウトロー臭ぷんぷんやし。ホレ行ったでぇ、虚閃」
「アウトローな、春水やと……? どないやねん……」
ヴォン!
「うーん、考えられへん……あ? ……チッ!」
「くく、ほぉ〜? オマエの仮面は避ける為に出すモンやったんやなぁ〜」
「ハゲコラァ! あんましいちびっとったらほんまにいわすど!」
あれから夏希ちゃんと店長サンは、食後にもう1杯ずつ飲んでさらっと帰りよった。
最近めっきり顔合わさんようなって正直ちょおホッとしててんけど、まさか俺ん店でバッタリがあるとはな……何や妙にムズムズする気色悪い空気なりよったし。
しゃーけど美容師サンいうんは、ああもコロコロ雰囲気変えよるもんなんかのう。確かに個性派おしゃれサンが多いいうイメージはあるけども。
リーゼントっぽい……何やったっけ、ポンパドール? いう前髪に、両サイドはシュッとひっつめて。そん髪型にライダースジャケット、メタリックなパンプスやら。
ヒールが高い所為もあんのか、とにかく昨日の夏希ちゃんは『ザ・かっこええ姉チャン』やった。相手もワイルド店長サンやし、そないな二人が煙草吹かしながら海外ビールなんか傾けとるもんやから、ひたすらイカツイことこの上なかったわ。
よう考えてみたら、あの子が知らん誰かとおるとこ見たんも初めてやったなぁ。
それに、あんな顔もしよんねんな。
何や真面目な話でもしとったんか、シャンと背筋伸ばして、えらい真剣な目ぇで話聞いとって。なんぼ見た目がアウトローやったり物言いが乱雑やっても、紛れもなくあれはええ感じの緊張感保った『上司と部下』やった。
上司と部下。かつて俺ん上にいてはった隊長サンとか、俺に着いてきてくれとった前の副隊長、席官や下の子ら……何や分かれへんけど、そんなん見とったら長いこと忘れとった色々が一気にぶぁー甦ってきて、一瞬ちょっと、懐かしさみたいなん涌いた自分に一層ムズムズしてもうた。
ここんとこアジトに来てはハッチの新術に付き合うて、何や居心地悪い結界ん中閉じ込められてばっかやったし、ひよ里相手にナマっとる体動かしてついでにムズムズも晴らしたろ、なんか思うててんけど。
確かに体はスカッとした。ひよ里の鍛えなアカン弱点かて再確認出来た。しゃーけど何やろ、まぁだどっかムズムズがおる気すんねんよなぁ。
――ムズムズ病いう病気にでもかかってんか? 俺。
「邪魔や、こんなとこ大の字でおらんときゃあ」
「何や、リサかい」
「ほら、アンタの携帯。何回も鳴ってウルサくてかなわんわ」
でーん舞台上で寝転がっとったら、修行部屋から上がって来たリサが俺ん携帯ポイて寄越しよった。おースマン言うて開いたものの、知らん番号の着信がバババて並んどってハァ? なる。ちゅーてもやたらめった教えへんし、バイト先ん人か? 思て、とりあえず掛け直してみた。
「あーもしもしぃ、電話貰たみたいですねんけどぉ」
「やっとかかって来たー! もー何度も電話したんだよ、平子くん!」
あー確かバイト先の……真ん丸くりっくり、チワワみたいな目ぇの……あれ、何チャンやったか? えーっとぉ……。
「やーすまんなぁ! ちなみにかけてくれた回数は俺への溢れる想いて受け取ってええんやろ? それともアレ、何かあったん?」
「あっは! もー何言っちゃってんだか。それよりそろそろ決めなきゃいけないんだけど考えてくれた? 店」
……ひよ里ほどやないけど、何やこの子も声でっかいのぅ。
「は? 店ぇ?」
「もー! 平子くんの歓迎会する店だってば!」
あー何かそんなんしてくれるとか言うてた気ぃする……かも? 携帯片手に首捻りつつ、半分上の空で手ん中のライター点けたり消したりしながら、歓迎会なぁ、思う。
「あーええよーそんなん、ほんまぁ」
……めんどいし。
「ダメダメ、もう皆なヤル気満々なんだから! 特に希望ないならこっちで決めちゃうよ? とにかく日曜の仕事後は空けといてね!」
「おー、分かったわぁ。ほなまた店でなぁ」
……ヤル気満々て何やねん。まぁ、言うてもどーせ騒ぐんにうってつけの口実っちゅーとこやろな。
だ〜る〜思いながら切ったれば、眼鏡ん奥でめっちゃ目ぇ見開いてこっち見とるリサに気ぃ付いた。あ? みたく口開けた途端、客席におるローズ目掛けてリサが叫びよったやんか。
「大変や! 真子が女の子の番号登録してへんかった! 絶対起きるで、災い!」
「ええ!? それ本当かい!?」
「……」
なんーで災いやねん。ベタに雪降るとか、可愛いらしい感じにしとけっちゅーんじゃボケ。しゃーけどほんま、何チャンやったっかなぁ……。
まーそない毎回シフト被るわけでもあらへんし、別にええか。次会うたら「ジブン、チワワみたいでむっちゃ可愛いなー」かなんか言うて『チワワちゃん』で定着さしたろ。
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