晩夏の花火 12
「ア、アホぅ夏希! コッチちゃう東やて東! ウチを信じ言うてるやろ!」
「えーでもさっきこっちが東って……ダメだ、全然分かんない」
花火を見終えた時には、ゴミ袋は空のパックや菓子袋なんかでいっぱいやった。めいめい焼酎やポン酒、ワインやらに移行した今、テーブルには汗掻いとるグラス4つと、ジュースのペットボトルが乗っとる。
パンパンやった氷が減った頃合でクーラーボックスに入れといたスイカ。酔うた勢いみたいなんで、浜辺よろしくスイカ割りしよやいうことに。
誘導は、左右前後やのうて東西南北っちゅールール。
今ちょうど、夏希ちゃんがふらふら行きよった先で慌てたひよ里が白刃取りしたったとこ。まー羅武がわざとひよ里ん方誘導しててんけどな。それ見て俺も笑いつつ、どっかボヤッとした頭で手元遊びに空缶積み上げとった。
――夏希ちゃん。 ジブン一体、何モンやねん。
キスケきっかけにひよ里と仲良うなったものの、それきっかけに何が起きたかは何も知らん。せやのに俺自身気ぃ付かれへんこと、何食わん顔でさらっと見抜いたりしよる。
俺が機嫌良うなったんは、正確に言うたら仲直りしたからやのうて、ひよ里と話して何やスッキリしたっちゅーか。口に出したことで自分ん中のモン再確認出来た気ぃして、ちょっとラクんなった感じしてん。
何でか彼女は、そない細波みたいなきっかけを無意識に作りよるとこある気ぃするわ。それ自体は大したことちゃうし、何の関係も無い。しゃーけど、そっから起きる波紋は侮られへん思うんは俺の考え過ぎなんやろか。
カツン!
「あー惜しい! もうちょいで当たりだったぜ?」
……アホウ、当たりや。
足元に散乱しよった空缶見下ろして、俺は何や妙な恐怖に駆り立てられてもうた。
夏希ちゃんがコンクリ叩いて立てよったカツンいう音は、8つ目の缶乗せようとしとった俺の目線外さして。拍子に俺は、一番下の缶を足で小突いてもうた。
根っこのちんまい綻びは別の綻びを生んで、その綻びがまた別の綻びを生んで……終いには全部をほどいてまう。
――アカン。俺はこれ以上、あの子に深入りしたらアカン。
せやのに何でか分かれへんけど、俺は自分のグラスんとこ来よった夏希ちゃんにフッツーに話掛けとった。
「あーあー手酌はアカンて。ほな注いだるから瓶こっち寄越しや」
最終的にローズが割りよったスイカを皆なで食うた後、ひよ里が何や眠い言うてごね出しよって。
「もう帰るんめんどいわ。今夜はオマエんとこで寝かし」
やら、まぁたガキみたく我儘抜かしよってんけど、まぁええわ思て先に部屋行かしたった。
ほなお開きっちゅーことで4人で片付け開始。そん途中、何や知らんけど羅武が夏希ちゃんこと引き止めて話し込んどるんが見えた。えらい恐縮しとる風の夏希ちゃんは、羅武に向て「とんでもないです」やら言うてぶんぶん両手振っててんけど、何となくひよ里んことやろな思うた俺は、気にせんとちゃっちゃ片付けに集中した。
「すっごく楽しかったです! じゃーお休みなさい」
「ああ、俺たちも楽しかったぞ!」
「今度ゆっくり僕もキスケに会わせてね」
「ほななー夏希ちゃん」
解散して部屋に戻ったはええけど、俺んベッドのドセンターで寝くさっとるありさまのひよ里にはガックシきてもうた。
「俺にここで寝ろっちゅーんか、あんのボケぇ……」
ドカッとソファに腰下ろしながらゴチてんけど、時計見たらまだ10時半。酒も飲んだことやし寝るには寝れそうやけど、えらい中途半端やなぁ……。
何となしに俺は、煙草片手にダルイ体べろべろ引きずってもっぺん屋上へ。
「あ」
「あ」
あっぶな。うっかり飛ばんといて良かったわ、ほんま。しゃーけど、どないなってんねや。なんぼお隣さんや言うてもこないなバッタリ……ちょっと、多ないか。
- 37 -
[*前] | [次#]
しおり
ページ:
章:
Main | Long | Menu