晩夏の花火 10
俺が手すりに体預けて煙草吸うとったら、漫画読んであひゃあひゃ笑うてた羅武が言うた。
「おい真子。ちょっとオメーんとこでトイレ借りていいか?」
「おーええで。ほい」
振り向いてポイて鍵投げたったら、手前んシートの上で仰向けに寝転んどったひよ里と目が合うた。途端にまぁたフン! しよって、あんまし言いたないけどケジメつけなアカンかぁ思う。
あれから色々考えててんけど、俺は自分が思うてたより皆なに甘えが過ぎとったんかも分からん。俺があんまし弱音を吐かへんのは、こんだけの付き合いしとったら態度でバレバレやろ思とったから。……夏希ちゃんにまであっさり見抜かれてまうぐらいやしなぁ。
俺に伝わっとるて思わしてくれてたんが、俺が皆なに甘えとる何よりの証拠。そない荷物なんか、ほんまはとうに『分けてもうてる』つもりやってん。しゃーからわざわざ口に出してまで背負わせたないし、何やカッコもつかんなんか思うてた。
――ただ、コイツの抱えとったモンに関しては、話が全くちゃうやんな。
「オイひよ里ぃ。ちょおこっち来ぃ」
「ハァ? 何やねん、ハゲが」
「ええから来い言うてんねん、ボケ」
しったらひよ里のヤツ、えらい反抗的な目ぇして、おもくそチッ! て舌打ちまでしくさりよって。挙句、俺と3メートルくらい空けた隣にドカッて胡坐掻きよったやんか。
「何や!」
「……」
うーわ、ハラ立つ〜〜〜っ! 何やねん、その舐めくさった目ぇは! 口は! 態度は! ……いや、今は我慢や我慢。
「オマエ、こないだ俺に『だぁれも思うてへんこと』言うたよな」
「あ? 言うたで? それが何や!」
「オマエが言うた通りや。ただし、俺も含めてやけどな」
「何やと……?」
「勘違いしなや。俺はオマエが思うとるよな責任なんかこれっぽっちも感じてへんし、それについて例えどない頼まれてもオマエらに謝罪なんかせえへんぞ」
オマエが俺ん背中に何を見とったんかは、よう分かった。しゃーけど俺は、オマエが思うとるよなそない殊勝な男ちゃうねん。
「それは俺自ら藍染が言うたんを認めるっちゅーことや。そんなんなぁ! 俺は死んでもせえへんぞ!」
“あなたが僕に選ばれたが為に――”
アカン。名前出したら語気が荒なってもうた。……チッ、しゃーから言いたないねん。体中の血が沸騰しよるよなこの感じ、ほんま反吐が出そうやで。
「……俺が抱えとんのはそないなモンやない。もっと、根本的なモンや」
俺ん様子に気ぃ付いてんやろな。ひよ里は何や見開いた目ぇでジッと見てきよる。冷静ならな思てハァ〜て大っきく深呼吸してから、俺は自分の声色を確認しながら先を続けた。
「俺の監視っちゅー目的も、それが出来る出来へんも、どっちが選んだやらも、四十六室も、喜助も、そんなん一切関係あれへん」
すまんなぁ、ハッチ。 どない考えてもこればっかしは無理やわ。これは、俺が背負わなアカン荷物やねんから。
「俺んとこの隊の副隊長と部下が謀反起こしよった。それは変えようない事実や。どない形んなってもな、俺にはその責任を負う義務ちゅーモンがあんねん」
せや。その責任果たさん内は、俺はオマエらに謝罪なんか絶対出来へん。
「それが元五番隊隊長、平子真子の矜持や」
オマエかて副隊長やってん、その意味分かるやろ。分からなアカン。俺だけやない、拳西かて同しモン背負うとるんやから。
「しゃーけど知らんかったとはいえ、ほんまの意味でしょーもないモン、長い間オマエに背負い込ませたんはスマンかった思うとる」
何やブルブル震え出しよって、まぁた泣くんか? ったく、めんどいやっちゃなぁ。向かいにしゃがんで覗き込んだっても、顔も上げへんわ。
「オイひよ里、聞いとるんか? スマンかった言う……っ!」
ゴッ!
「〜〜〜〜っ!?」
……悪かった言うてる相手に、こ、この至近距離で飛び蹴りするてどないやねん!
「オマエ今、謝りついでにウチのこと馬鹿にしたやろ。何やねん! 『ほんまの意味でしょーもないモン』て!」
「ハァ!? そんなん言うてるんちゃうやんけぇ〜俺はオマエに要らん心配掛けた思うてやなぁ〜」
「フン! 誰がオマエみたいなハゲ心配するかっちゅーねん! 自惚れんのも大概にせぇや!」
「あぁ!? 半べソかいとったヤツがよう言うわほんまぁ。大体なぁー夏希ちゃんに俺イコール『ハゲ』て定着さすん止めて貰えますー。うっかり『ハゲさん』やら言われたらどないすんねん、三日は確実に寝込んでまうで俺ぇ〜……って、あ痛たたたたた!」
ヒュルルルル〜〜
ドーン!
「……」
「……」
「「……えぇー……」」
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