晩夏の花火 7
――火曜日。
「白ぉぉ〜スーパー――」
「遅いっ!」
ドォォォォン! ズサーッ!
いつものメンツ。いつもの光景。耳慣れた地響き。
「ただいま戻りマシタ」
「昼飯やぞー」
「わぁ、ひよりんのとこのお弁当?」
「おい白テメー! 先に手ぐらい洗いやがれ!」
しゃーけど1個だけ違うんは――。
「ひよ里ー! アンタの携帯鳴ってんでー」
ここに全員の姿があっても、ひよ里がむっちゃ普通に夏希ちゃんと話すようなったこと。何や一応はちょっと離れたとこ移動しよんねやけど、まー言うてもあのボリュームや。ただのポーズにしかなってへん。
「ハァ? 今起きたやと!? 何べん電話した思てんねん! ――せや、何か買うてくモンあんのか聞こ思て……」
昨日バイト行こうとしとるひよ里とっ捕まえた俺は、夏希ちゃんとは後悔せんよう仲良うしぃやて言うたった。ほんなら一瞬ちょっと驚いた顔しよってんけど、余計なお世話やハゲ! 言うてまぁた、フン! なんかしよったわ。
「真子ぃー! 早くしないと良いのなくなっちゃうよぉ〜?」
「ハァ? 何言うてんねん白! ウチんとこの弁当やぞ? 全部美味いに決まっとるやんけ! ――で、何やったっけ? は? 酒ぇ?」
あの晩、俺とひよ里の間でどないなやり取りがあったか知っとんのは多分、ハッチだけや。そのハッチかてほんまのとこまでは聞いてへんかも分からん。
しゃーから皆なは仲直りっちゅーか、とりあえず普通に戻った思うてるみたいやねんけど、俺からしたらまだひよ里ん中に燻っとるモンがあるなんか一目瞭然や。
「いいなぁ〜ひよりん。今日の花火なっちゃんと見るんでしょー?」
「だったらテメーもくっついて行きゃいいだろ」
「だってぇ〜わた飴たこ焼きソースせんべい〜! 金魚掬いもや〜り〜た〜い〜!」
「チィッ……!」
「ま、まぁまぁ拳西。白も、拳西とハッチとリサと一緒に行くって決めてたんだろう?」
「そうだけど〜そうだけどそうだけどぉ〜!」
ローズに羽交い絞めにされた拳西の横を通り過ぎて、ゴロゴロ転がっとる白も跨いで、くぁ〜欠伸しながら弁当の元へ。……アカン出遅れ過ぎたわ、大盛り残ってへんやんけ。
「放っときゃあ、ローズ。白が屋台より知らへん人間の子選ぶわけないやろ。アンタはどうするん羅武、見に行かへんの? 花火」
「あー俺は人込み苦手だしパ――」
「羅武、ローズ、ハゲ! アンタらもウチと来ぃ!」
「は……?」
いきなし呼ばれた俺含めた三人揃ってひよ里ん方向いたら、何や拗ねとるんか照れとんのか分からんよな顔しとって。
「……夏希が、酒は自分で買いに行く言うて聞かへんねん」
ボソて零しよった意味を、ちょっと経ってからようやっと理解した俺らは、ああ、て次々頷いた。
スーパー到着しておよそ10分。ガラガラ引いとるカートん中は、既にツマミやら酒やらでてんこ盛りなってきとる。
「モンペラあたりどうだい?」
「船上パーティーでもあるめぇしワインはねぇだろ。やっぱビールじゃねえか?」
ひよ里は酒が飲まれへん。いや、正確に言うたら要するに美味さが分かれへんちゅーこっちゃ。死神やった時の体質に合わへんかったいうのもあんのか、義骸の今でも好きにはなれへんみたいやねん。
ただ、髪やって貰うとる礼か、単純に誘われて嬉しかったんかは分からんけど、何か夏希ちゃんの為に買うてってあげたい思たんやろな。朝から電話かけて聞いたはええけど「酒かなぁ」言われて。飲めん言うたひよ里を未成年思いよったんか、自分が飲みたいだけや言うて夏希ちゃんは自分で買いに行くて言い張りよったみたいや。
しゃーけど、ひよ里が飲みの席におんのは楽しい思てんのは皆なよう知っとること。大方夏希ちゃんが遠慮せんと飲めるよう俺らも連れてこ思た、ちゅーとこやろな。
まーそれはそれで楽しそうやし、そのまま自分んとこ戻って寝れるし問題は無い。
「真子、オメー何か聞いてねぇのか? 夏希ちゃんが何好きとか」
「んあ? あー知らんなぁ……」
そこで俺はふと夏希ちゃんが赤マル吸うてたん思い出して、くくて笑うてもうた。
「しゃーけどあの子、見た目はしっかり女やねんけど結構な渋センやねん。ポン酒や焼酎あたりツボかも分からんで」
「あー、そういや部屋の感じもあんまり女の子っつー感じじゃなかったな」
「アンタら、夏希の見た目に騙されたらアカンで! ハゲ真子が下ネタ言うても、ほん〜ま何でもないツラしてさらっと返しよる女やで!?」
“ハァハァは無いですけど――”
……あー、あん時んことか。確かに、顔色ひとつ変えへんかったな。
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