晩夏の花火 3
ドシーン、ドシーン……
あの後ひよ里は、俺が何も言わん内に一方的に帰る! 言い放ってびゃっと出て行きよった。ほんでもって今朝も、アジトで顔合わせるなりほんまガキみたくフン! なんか言うて顔を背けよる始末。
まーアイツのことやし予想は出来ててんけど、単純に喧嘩したわけやないだけに余計めんどい。こんなんなんのかて初めてちゃうけど、何やえらい久しぶりやなぁ……3、40年ぶりぐらいか?
そんなこんなで何となく地下の修行部屋行く気になれへんかった俺は、ホールんニ階席でひとりゴロ寝としけこんでてんけど――。
ドシーン、ドシーン……
来よったな思た俺は、シートの背もたれ掴んで来るべき振動に備えたった。
ドシーン、ドシン。 ドッスーーーン!
「……食べマセンか?」
俺がおる横の少し広なってる通路に、そんでっかい図体にはまるで似合わへんアイスの袋持ったオッサンが座りよった。
「おーほなりんごの実ぃくれや、ハッチ」
「……待ってたんだと思いマス、ずっと」
前にひよ里とこないなった時も、こうして緩衝材になってくれたんはハッチやった。ちゅーか皆なかて気に掛けてはくれてんねやけど、俺らん間に上手いこと入れんのが他にいてないだけやんな、多分。
「待ってたぁ……?」
「仮に藍染惣右介を危険だと感じても、真子サンと同じように出来る方は誰もいなかったと思いマス。それをよーく分かっているからこそ、代わりにひよ里サンはアナタが話してくれる日を待つことにしたのでショウ」
“せやから余計ハラ立つねん!”
……あのアホ、そないガラかっちゅーねん。何年もしょーもないもん抱えとったんどっちやいう話や。
「話す、言うてもなぁ……」
「何でも良いんデスよ。『しんどい』『疲れた』弱音でも何でも。アナタが心に背負うモノを分けて欲しいのデス。勿論ひよ里サンだけでなく、ワタシや皆サンも」
……そないニッコリした顔見せんでも、分かっとるわ。そう思うてくれとるて分かっとるから、背負わせたない思うんやんか。
「しゃーけど、せやったら何でアイツ昨日……」
「それはワタシにも分かりまセンが……そういえばひよ里サン、ワタシに夏希サンという方のことを話してくれマシタ」
“夏希とおっても別に楽しないねん。何考えとんのかあんま言わへんし、けったくそ悪い思う時かてあんねんで? ……せやけど、嫌やないねん”
“珍しいデスね。ひよ里サンが人間の方をそんな風に思うのは”
“……ウチ、気付いたんや”
“何に、デスか?”
“……似とるんや”
そないな話したんが今朝のことやとか。ほんでもって何を思うてか知らんけど、ハッチは『誰に』かは聞かへんかったらしい。
似とる……? 夏希ちゃんが? ――誰にや。
ぼやー考えながら、俺はふたつ分の座席にもっぺんゴロンて横んなった。横からはハッチが丸玉をボリボリ食う音がしとる。いやそれはそないして食うモンちゃうやろ。
俺は寝転がったまんま通路におるハッチに向けて、腕だけ伸ばして掌広げたった。
「……マンゴーの実ぃもくれや」
「はいデス〜」
ガサガサいう音ん後、ポンポンポンて乗ったアイスで一気に手がひんやりなる。
「1個でええよ」
「そんな遠慮しないで下サイ」
「ふっ、遠慮ちゃうわ。1個でええねん」
そうデスかぁいうオッサンのしょんぼり声を聞きながら、掌の真ん中に置かれた1個を摘み上げてみる。めちゃめちゃでっかい体して、こない飴ちゃんみたぁなちっさい橙を潰さんと渡しよるハッチは凄いなぁ、なんか思た。
「やっぱしまだ、外はクソ暑いんかなぁ……」
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