晩夏の花火 2
「何をしとんねん、あのボケ……」
昼間リサから、昨日遅くに霊圧消してまでひよ里がどっか出掛けよったて聞いた。
「何やええ匂いさして帰って来たで。これでやーっとあたしの肩の荷も降りるってもんやな」
「アホか! んなことあってたまるかい!」
真顔で色めきよるリサは一蹴したったけど、今夜も出掛けよったて聞いた俺は面白半分で後尾けてみることにしてん。ちゅーても大方ちょっとばかし暴れたなって、ちんまい虚でも狩ってんねやろ思うててんやけど――。
ほんなら何やねんあれ。何でアイツ、俺んとこのアパートの屋上おんねや。
ハァ? 思いつつ近くの雑居ビルから観察しとったら、駐輪場からカシャンいう音がして夏希ちゃんが帰って来よった。しったらひよ里のヤツ、何を思たんかいきなし片っぽの髪ぎゅー下にずらしよったやんか。アカン、アイツ完全に頭おかしなりよった。
連れて帰らな思て動き掛けてんけど、ひよ里が一歩早くシュッと踊り場に下りよって、ちょっとして上がって来た夏希ちゃんに言いよった。
「何べん言わせんねん夏希! 遅い言うてるやろ!」
は……?
「うをっ! さるが――」
「ひーよー里!」
「ひ、ひよ里、ちゃん……来る時は電話してってばー」
……どういうことや、ぜっぜん分かれへん。
ただ、予想もしとらんかったまさかの光景にはポッカーンやったものの、ふたりの空気からどない状態かは何となく分かった。俺ん口から、無意識に舌打ちが漏れた。
「本当に送らなくて大丈夫?」
「アホか、そんなん言うてる暇あったらはよ寝ぇや!」
「……アンタかて疲れとるくせに」
「しんっ……!?」
2時間後。夏希ちゃんとこのドアがバタン閉まったんを見計らって、俺はひよ里の腕引っ掴んで自分の部屋へグイて引き摺り込んだった。
「何すんねん、しんぐっ……!」
「静かにせぇ! ここじゃ下手したら聞こえてまうわ!」
玄関でバタつきよるひよ里ん口塞いで寝室に押し込んだったものの、何や不貞腐った顔さらしよってこっちを見ようともせえへん。
「どないつもりやねん」
「……真子には関係無いわ」
人間嫌いなひよ里が、特定の誰かに懐くんなんか初めてやし、それが何で夏希ちゃんなんかも分かれへん。しゃーけど、別に夏希ちゃん悪い子ちゃう思うで? 思うけどな。
「自分が何をしとんのか分かれへんのんかい! 後でしんどなるんはオマエやぞ!」
「せやったらオマエは何やねん!」
悪い子ちゃうから、オマエみたく難儀な性分しとるヤツが仲良うなったらアカンねやろ? ……って、は?
「だぁれも思うてへんこと勝手に責任感じて。一番しんどいもん抱えとんのオマエちゃうんか言うてんねん、ハゲ!」
「何やと……?」
コイツは一体、何を言い出してんねや。
「……ウチ、ほんまは聞こえててんぞ。藍染がオマエに言うたこと」
“あなたは――謝罪すべきかもしれませんね”
「……っ!」
「ウチにはオマエみたく何年も黙って監視するよな芸当なんかよう出来んわ! そんなん分かっとる! せやから余計ハラ立つねん!」
「ひよ里、オマエ……」
「何年一緒おる思てんねん! そないひとりで抱えたいんやったら半端な猫背なんてやめてまえ! とっとと垂直でも何でもなったらええねん! そないしょーもないもん抱えてしんどなるぐらいならなぁ! 忘れたないこと抱えてしんどなった方がマシや!」
……ったく、唐突に怒鳴り散らしよってからに思たけど。
ひよ里の目ぇが潤んどるもんやから、何も言われへんかった。
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