あの人とこの人:羅武
雰囲気のある女だな、と思った。
ふわふわした髪を揺らしながら凛とした表情を見せたり、愛想は良いんだが孤高な印象もあった。対比するもんを併せ持つ――とでも言ったところか。
“で、どんな子なんだ?”
“んー礼儀正しいねんけど、気取らん感じの子やで”
昨夜の時点で、問題の猫の件と男がいるようだということ以外、彼女について具体的な情報を得てない真子を意外だと思った。
知り合って一週間。たった2回話しただけの、たかが隣人。だが相手はあの浦原喜助が手を加えたと見て間違いない、妙な猫を飼ってるって言うじゃねぇか。霊力はまるで無さそうとのことだが、それを差し引いても用心するに越したこたねぇ存在だ。
確かにこの短期間であれこれ聞くのも変だが、それも真子なら上手くやってのけそうなもんだ。ただ慎重な真子のことだ。今日の印象如何で或いは滞在場所を変えるつもりなのかもしれない、とも思った。
だが実際に会って、何となく分かった。
真子は夏希ちゃんとよく話していた。話してはいたが、彼女の個人的なことには殆ど触れない。夏希ちゃんもまた、俺らについては何も聞いてこない――不自然なほど、妙にそれが自然に思えた。
夏希ちゃんの前だっつーのに、流れで何となくひよ里に鉄拳加えちまった俺も俺だが、彼女は、流石にかなり驚きはしてたが、特にそれを機に態度を一変させるでもなかった。踏み込んで来ない代わりに自分にも踏み込ませない。人当たりは良いが余計な隙は見せない。いたって無害なんだがひとクセ持ってそう。
何となく、そんな感じがした。
「何や、ひよ里ぃ。ひょっとしてまぁだ腹痛いんか?」
「……ちゃうわ、ハゲ」
黙りこくったまま前を飛ぶひよ里の分け目は、見慣れた一直線ではなく綺麗なジグザグだ。あの後も夏希ちゃんの様子に特に変わったところは見られなかった。髪を結って貰ってる最中、ひよ里の中で思うことでもあったのかもしれねぇな。
「何やアイツ、気色悪っ。そういや羅武、オマエ昨日いつも買うてる雑誌の発売日やったんに買われへんかったんちゃうか?」
「あぁ、後でコンビニ寄ってくれ」
口は悪ぃが人のことばっか気遣う。真子は本当に変わらねぇ。
「真子、オメー……本当にあそこでいいのか?」
「は? 何で?」
「……いや、何でもねぇ」
気遣うばっかで心の内は見せてはくれねぇ……ほんと、変わらねぇよ。
- 25 -
[*前] | [次#]
しおり
ページ:
章:
Main | Long | Menu