あの人とこの人:ひよ里
「アンタ、美容師なんやろ? ならアンタが直し」
「え、いいんですか?」
わざとつっけんどんに言うてやったんに、この川村夏希いう女、何や知らんけどえらい嬉しそな顔しよった。
初めはその辺のヤツと変わらんフッツーの人間やん思うた。霊力サッパリ。オマケにええ歳こいてぼんやりしくさりよって、ちっこいウチに歳も聞かんとずっと『猿柿さん』に敬語。どーせ腹ん中でクソガキ思うてんねやろ、てイラっとも来てん。
どういうヤツや思い始めたんは喜助の話らへんからや。嘘はついてへん、それは分かった。せやけど表情は読みにくいし、何や妙に掴み所ない感じするやんか。
トイレから戻ったら紅茶出されててんけど、無理して飲んだった珈琲も下げられてへんかったし。
やなヤツちゃうけど、こない何考えとんのか分からんタイプは苦手やねん。せやけどあの部屋、何や青林檎みたいなええ匂いしたし……ちょっと気になってん。
もっとワケ分からんのはその後や。真子が何となしに言うたて分かっとったくせに、何であないややこしい事情自分から言うたんや。どんだけ要領悪い生き方してんねんアホちゃうか。美容師やから髪には拘ってますーいう当たり障りない風にしとったらええやんけ。
「わぁ、こうして見ると本当に綺麗な色ですねーハリがあってしなやかだし」
煙草吸うてる言う真子たち残して、ウチは今この女に髪の毛結い直させんのを口実に青林檎の部屋におる。めちゃめちゃ嬉しそな顔されて、えらい丁寧に櫛で梳いて貰うんは……正直気持ちがええ。
――せやけどウチは、どうしても聞いときたいねん。
「……アンタ、何でウチらのこと何も聞かへんの」
「何してる人か、とかそういうことですか?」
鏡に向うて頷いたれば、川村夏希は「あー」言うて何や苦笑いみたいなんしよった。
「勝手にあれこれ想像はしてますよ? ただ正直、私の中ではそういうのってあんまり聞くほど重要じゃないんですよ」
「ハァ? どういう意味やねん」
「接して行く中で見えるものの方が大事っていうか……すみません、上手くは言えないんですけど」
“ボクもちょっとずつ――わかっていきますから”
「……!」
“何か楽やねんなぁ……あの子”
“どーせ顔が好みとかそんなんやろ、このエロガッパ!”
“何でやねん! ……そらまぁ、そこそこの別嬪サンやで? しゃーけど、そんなん言うてるんちゃうっちゅーねんボケ”
分かって、しもた。
- 24 -
[*前] | [次#]
しおり
ページ:
章:
Main | Long | Menu