隣人の素性 9
「うをっ……」
何を悲鳴上げることがあんねや思うたものの、実際俺もちょっとぎょっとしてもうた。ちゅーのも部屋ん中ヒョイて覗いたら、肩から上だけの人形みたいなんがめっちゃこっち見とったやんか。電気が点いてへんにしたって流石に6つは結構なホラーや。
「ああ、なるほどな。耐性がどーとか言ってた理由はコレか」
ちゅーか、ひとり驚かんと納得しとるけど羅武、オマエ誰やねん……。
いや、確かに仕事帰りにしては軟骨に鍵型のピアスが刺さっとったり、OLサンいう感じちゃうなぁとは思うててん。しゃーけど何や礼儀はしっかりしとるし、爪なんかは短いねんなぁ思うててんやんか。
「……夏希ちゃん、美容師サンやったんや」
「あー……まぁ一応……」
妙にスッキリした俺が言うたんに対し、夏希ちゃんからは何や歯切れ悪い肯定が返ってきよった。何やろ思いながら、その部屋ん鏡と向き合うた椅子なんかをぼんやり眺めててんけど――。
“洗ってきた?”
“はい”
「あ! なぁ、ひょっとしてアレ? 一昨日松田が来よったんは……」
「え? ああ、はい。髪を切る約束だったんです」
ほーかほーか、そういうことやってんな。めちゃめちゃ納得やわ。
「……アカン!」
俺が「ほー」とか言うて頷いとったら、何や急に叫びよったひよ里がピューて便所の方へ行きよった。……そういや何か妙に静かや思うててん。何やアイツ、それで俺んとこと同し間取りやのに間違うたんか、アホやなぁ。
「ぶっ! ひよ里のヤツ、しれっとした顔してすげぇ我慢してたんだな」
「大して飲めへんくせに意地張って珈琲飲むからやろ。自業自得や」
それ聞いてポッカーンなってた夏希ちゃんが、ぷってちょっと笑うてから言うた。
「えーと紅茶だったら、大丈夫ですかね……?」
ひよ里は自分んとこ用意されとった温かい紅茶を、何や気色悪いぐらい大人しゅう飲んどった。その上さっきの部屋もっぺん見たいなんか言い出しよるし、何や言うてもコイツにも女らしい興味あんねやなぁ。
「何やオマエ、あの生首怖いんとちゃうんか?」
「ええから見してみぃ言うてんねん!」
……ま、言うてもこの調子やねんけど。
聞いたら夏希ちゃんとこは、ドレッドとかコーンロウいう特殊ヘアもやる店らしい。実際、何個かの生首ん前にはそれっぽいデザインのメモみたいなんが貼られとった。
「はー! ほな今度、俺も切って貰いたいなぁ」
何気なく言うたら、羅武の頭見て「へー」やら「あぁ!」やら言うてた夏希ちゃんの顔がスッと真顔んなって。それから何や妙に迫力ある雰囲気醸し出しよった彼女が、そこは譲られへんっちゅー感じの口調で言うた。
「それは全然構わないんですが……私、髪フェチっぽいとこありますけど大丈夫ですか?」
……どういう意味やねん。話によっちゃむっちゃ大胆なカミングアウトやで、それ。
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