隣人の素性 7
――火曜日。
「猿柿ひよ里」
「愛川羅武だ」
……困った、言葉が見つからない。
白Tに裾をまくった赤ジャージ、金髪ツインテールのちっちゃい女の子、と。
星――もしくは太陽か。とにかくすんーごく気になるファンキーなヘアスタイルで、バタフライちっくなサングラスをかけてる男の人、に名乗られている。のだな私は。
そして私はまだ名乗っていない、わけで。
「あー……と、川村夏希、です。初めまして……」
私がおずおずと頭を下げると、猿柿さんという女の子の眼がスッと据わったような気がした。次いでわしわし頭を掻いている平子さんが、このやたらぶっ濃いメンツについて説明してくれる。
「すまんなぁ、夏希ちゃん。こないだ話した白はリサいうのと和菓子カフェ? やらに行く言うてな。ほんでまぁ、この羅武いうんはひよ里の保護者みたぁなもんや」
星頭さん保護者? なんだ。でも『ラブ』って? 愛、愛なの? あだ名? つーか平子さんのお仲間って……関西系バンド? え、なに芸人さん?
他にも何人かいるみたいだけど、もしや全員こんなにキャラ濃いいんだろうか……。
「チッ! ガキ扱いすなって何べん言うたら分かんねん、ハゲ真子!」
「ガキにガキ言うて何が悪いんかの〜? ぜっっぜん分かれへんなぁ〜俺ぇ〜」
「あ? 何やと! ほんまにハゲさしたろか、このハゲ!」
「……」
「……まぁ、つまりこういうワケだ。俺がついて来たのは」
『目が点になる』って、多分こういう時に使う為の言葉なんだと物凄く実感。面目無さそうにする愛川さんをぼんやり見上げながら「理解した」というように、とりあえず首をこくこくとさせる。
「ほんでっ? どこにおんねん『喜助』は!」
「ぇあ、じゃーあの、と、とりあえず入って下さい」
開いたドアを押さえる私の前を、猿柿さん、愛川さんが過ぎて……あ。
うわ、気になる! めちゃくちゃ気になる!
その後姿を見送っていたら、猿柿さんの後頭部の分け目の内、ひと束だけ逆の方のゴムに入ってしまっていることに気付く。
「騒がしゅうてスマンなぁ。ほいコレ」
そう言って最後に平子さんが洋菓子屋さんのものと思われる箱を渡してくれた。受け取ったそれはとてもひんやりしていて、アイスかなぁ、とまだ呆然とする頭で思う。
ドアを閉めようとして耳に届いた、けたたましく鳴く蝉の声。そこで今更になって、ああ今日も外は暑いんだ、とか、凄くどうでも良いことに気付いた。
「喜助ぇー! どこやー!」
リビングの方から、猿柿さんが叫んでいる声が聞こえた。
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