隣人の素性 3
「張さんには会いました?」
「あぁ、あのカタコトで喋りよる中国人のオッサンやろ? なに、あの人 自宅で商売したはるん?」
俺が挨拶行った時、「私の名前、張デス。私悪いもの取る。ヨ!ロ!シ↑ク!」言いよったオッサンや。何や表札ん横に小難しい漢字が並んどるプレートみたいなん貼られててんけど、どっから何を取んのかサッパリわかれへんかった。しゃーけど何やおもろいオッサンおるわぁ思うててん。
「ええ、針師さんです。すっごく効きますよ! それに張さん、古琴を弾くんです。5階は良い音色が聞こえますよー」
「コキン? 楽器?」
そういや不動産屋がペットも楽器も煙草も、了解取れば壁紙なんかもわりと好きにしてええ自由度の高い良物件や言うてたな。古さや不便さが苦にならん人には、よそにはない特典てんこ盛りっちゅーわけか。
「そうそう、中国の琴です。聞いたことあります?」
「んーあるんかなぁ? 聞いてみんことには分かれへんわ。どんなん?」
「日本の琴ほど平たくない、少し柔らかい感じの音なんです。ペーンではないんですよ。てぃーん? いや違うな。ぺぃーん? ぱぃーん?」
ぶっ
「ハハハハ! ……やーすまんすまん。あんまし難しい顔して『ぺぃーん』やら『てぃーん』やら言いよるもんやから」
「え、あはは! どんなんだっけーとつい真剣に思い出しちゃってました、ふふ」
せや。腕組みして、眉間にぎゅー皺寄せて『ぺぃーん』はない。しゃーけどほんま楽やなーこの子。何やテンションに安定感があるいうか。ええ感じに笑うてくれとるし、そろそろ頃合やんな。
「……なぁ、夏希ちゃん。今度の休みていつ? 何か用事ある?」
「え? 休みは明後日で、んー別に特に何も無いですけど?」
「あんなぁ、実はこの辺に何人か俺ん友達……ちゅーか仲間、みたいなんがおんねやんか」
何でやねん。あないひよ里に妹設定押し付けたん俺ちゃうんか。何フッツーに『仲間』言うてんねん。まー全部話すわけやなし、大丈夫や思うけど。
――何や分かれへんけど俺、急に嘘付くんが嫌んなってもうたわ。
「ああ、そうなんですかー」
夏希ちゃんは「へー」いう顔で大して気に留めんと先促す目ぇしとる。助かるわぁ。
「ほんでな。そいつらにこないだ、お隣サンちむっちゃ男前な猫おんねんでーて話してんわ」
「え、キスケさん? あはは、『男前』って良いですねー。帰ったら報告しよ」
「ハハ、したったれしたったれ」
ほんで俺は、そん中にひよ里いうのがおってキスケに会うてみたい言うてるっちゅー話をさらっと伝えたった。あくまで「シュッとした猫を見たがっとる」いう体で。
「しゃーけどむちゃくちゃ口の悪いガキやし、親戚んちの子ぉみたいな感じやねん」
やら、ベタベタな物言いまでして。ひょっとしたら白っちゅーてんで空気読めへん子も引っ付いて来てまうかも分からんいうことも、念の為に付け足して。
しゃーけど夏希ちゃんは、最初から最後までとにかくずっと楽しそに笑うてて、こっちのいきなりな頼みにも「大歓迎ですよー」言うてくれた。むっちゃあっさり。
どういう仲間やとか、全部で何人とか、他にどんなヤツいてるとか。どないに言うたもんか考えとったんが何やアホらしなるぐらい、見事に何も聞かれへんかったわ。
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