新しい隣人 10
「ええか、妹やねんぞ! ひーらーこーひーよーり、やで!」
翌日、妙な気迫に満ちたひよ里にくどいぐらい念押してから呼び鈴押したったものの、生憎と夏希ちゃんは留守やった。戻るまで待ったる! 言うて引かへんひよ里と俺ん部屋で待機しててんけど、結局アジトに集合せなアカン時間なっても夏希ちゃんは帰って来えへんかった。
更に翌日、ひよ里に加えワケも分からんと一緒行く言うて聞かへん白を引き連れて3人でリトライ。しゃーけどこの日も夏希ちゃんはおれへんくて。二連チャンで肩透かし喰ろて、流石のひよ里も拍子抜けた顔しとったわ。
内心どっか、俺はホッとした。コイツらはええかも知らんけど、せっかく決めた滞在場所や。初っ端からやりにくうなんのはかなわん。
「なっちゃん、留守だったね〜」
会うてもないのに『なっちゃん』かい思いながら3人で階段下りとったら、3階で部屋に入ろうとしとるOL風の女性に会うた。
「あ! あなた5階に入った平子さん、ですよね? 一昨日引越しのお土産ドアノブに掛けといてくれたでしょう? ありがとうアレ素敵だったわー! お洒落だしすっごく良い匂い! アレまだそんな出回ってないんですってね? なっちゃんが言ってたわー本当に素敵!」
確か斉藤サン、やったか。何や地味そな感じやのに、むっちゃ喋りよるなぁ。
「はぁ……まぁ、たまたま見っけただけですねんけど……」
「へー本当に綺麗な金髪ですね! うふふ、ライバル登場だわねえ。関西から越してらしたの?」
……何の話やねん。ちゅーかおもくそキャッチボール出来へんタイプやんか。
「ちょっと聞いてもええかー」
うわ、ひよ里のヤツ、ずぃっと前出よったで! 『マシンガン斉藤』に圧されて完全にふたりのこと忘れてもうとったわ。
「5階の川村夏希。全然おれへんけど、どないな女やねん」
「え、なっちゃんのこと? 自転車が無いし仕事だと思うけど? どんなってそうねぇーちょっと変わってるし無頓着なとこあるけど普通に良い人よ? このアパートに住んでる人は皆ななっちゃんにお世話になってるわ。私もまだ3年目だけどここは本当に良い人たちばかりなのよー前のとこなんて――」
アカンアカンアカンアカンアカン! 死んでまう! 息吸わな死んでまうで!?
……ちゅーか斉藤サン、最強かも分かれへんわ。そうそうおれへんねんで、ひよ里んことこないドン引かせよる芸当持っとるヤツ。
「ねーねー真子ぃー。このオネーサン本当にニンゲ……むぐっ、うー! うー!」
「おおきに斉藤サン! ほなよろしゅう頼んますー!」
慌てて白ん口ぃ塞いで、ひよ里の襟首も引っ掴んで、言いながらそそくさと退散。
1階まで下りてふーひと息ついとったら、今度は何や陰気臭い男が前から来よったやんか。
すれ違いざまにペコてしよったこの男――1階の松田、いうたか。俺が挨拶行った時「はぁ」と「どうも」しか言わんかった、パックリ真ん中分けのヒョロ〜てした冴えへん男や。……あれが噂のオタクいう種族なんやろか。
そんなこんなで結局、俺が夏希ちゃんに会えたんはそっから3日後――初めて会うた日から5日後、日曜の夜やった。
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