新しい隣人 9
ピーッ! ピーッ!
温め終了のアラームで我に返って扉を開けると、食欲をそそる香ばしい香りが辺りに広がった。
「んーいい匂い! そういや宅配のピザ食べるの久しぶりだなー」
皿とグラスを片手に、冷蔵庫から麦茶の入ったガラスジャグを取り出し、足でぱすんと扉を閉める。ご機嫌な足取りでテーブルへ向かうと、ソファに置いた小箱をキスケさんが「何コレ何コレ」というようにテシテシしていた。平子さんから頂いた挨拶土産の箱だ。
「何だろうねー、お菓子かな?」
ソファに腰掛け、グラスに注いだ麦茶をひと口飲んでから、その小箱を膝に乗せて包装紙を剥がす。そうして中から出てきた箱の蓋にあったマークを認めた私は、思わず目を見開いた。
「わ、凄い! マニアック!」
それは、まだ日本では取り扱い店舗の少ない、スキンケアやボディケア中心の自然派化粧品メーカーのマーク。私のように美容に関わっている人間はともかく、一般的にはまだ知らない人の方が多いに違いない。
蓋を開けると、同じシリーズと思われるハンドソープ、ボディソープ、入浴剤のセットだった。呆けたままボトルのひとつを手に取って蓋を開け、そっと鼻を近付ける。今の季節に合いそうな、爽やかでユニセックスな香りだ。
「……キスケさん、最近は引越し土産もお洒落なんだねぇ」
つぶらな瞳で小首を傾げる愛猫を見つめながら、皿を返す時にでも改めてお礼を言わなきゃなと思った。
――とある廃ホール。
「何だか随分と神妙な顔してるじゃない」
「んー……なぁローズ。喜助の話やねんけど、アイツ、魂魄操作までして猫を助けたりする思うか?」
「え、猫?」
「せや、猫や」
「さぁー……でも彼だって元隊長なんだし、意味無くそんなことするとは思えないけど?」
「せやねんなぁ……」
「でも急に何の話? 猫がどうかしたのかい?」
「いやぁ、今度の隣にな、喜助が助けた猫を飼っとるいう女の子が住んでんねん」
「何やて!」
上方の観客席やった辺りで、近くにおったローズとそない話をしとったら、舞台近くにおったひよ里が喰い付きよった。ほんまどないな耳しとんねん。
「どんな女や! 喜助と何か繋がりあんねんか!?」
関係無いいうんを強調して簡単に話したったものの、案の定やっぱ、どうにも腑に落ちんらしい。どういうことや! やら、説明なってへんやんけハゲ! やら何やら。
「せやったら、何でや!」
「そんなもん俺かて分かれへんわボケ!」
ヤイヤイ続きよるテンションに引きずられて、気ぃ付いたら売り言葉に買い言葉。この流れはアカン思うた時には、既に遅かったみたいや。
「そないワケ分からん話聞かされて、はーそうですかー言うてノコノコ帰って来よったんか、このハゲ!」
「そんなん言うたかて初対面やぞ!? ツッコんで聞いたら余計おかしなるやんけ」
「もーええ! ウチが直接行ってきっちり聞いたる! ついでにその女がどないツラしとるんかも拝んだるわ、ハゲ!」
ひよ里が喜助んことに過敏になるんはしゃーないことや。それはまーよう分かってんねんけど……何や、えらいめんどいことなってもうたなぁ。
- 12 -
[*前] | [次#]
しおり
ページ:
章:
Main | Long | Menu