交錯する思い 9
「ほんと、プロのアクション見てるみたいだったよ」
「へへー、あたし足技は得意なんだぁ〜」
後ろから聞こえてきよる、噛み合うとんのか噛み合うてへんのか分からん白と夏希の会話。背中越しにも、夏希の頭に「えっ?」やら「あれ?」が度々浮かんどんのが手に取るよに分かって笑けてくる。
しゃーけどもうひとつ大事なこと言うとかな思た俺は、未だフテ腐った顔さらしとる横のひよ里にちょお声のトーン落として言うたった。
「あとな、オマエもうちょい言葉に気ぃつけんかい。何や『人間のが』て」
分かったか、言うたらフテり顔のまんまチラてこっち見よったひよ里は、しゃーけど前に向き直ってから小っさく首をコクてさした。
流石に誰ん為の会なんか分かってんねやろな。白が来よった途端に駄々捏ねんのも止めたし、コイツにしてはかなり殊勝な態度や思う。
ちゅーても、俺らかてひよ里がイヤがりよる気持ちは分からんワケやない。
人間の想像力ちゅーモンはほんま底なしや思う。まー言うても『俺らんとっての未知の存在』と対峙してもうたら、そら俺らかて恐怖も抱くやろうけど。UMAとかな。
しゃーけど、殊このテのホラーに対する想像力は、実体を知っとるモンからしたら感服もん。ぶっちゃけ整の霊なんか昼夜問わずそこらにウヨウヨいてるし、当たり前におどろおどろしいBGMも何もない。ほんでもって、ソイツらが鬼気迫る形相で襲ってきたり、追っ掛けて来よることもないワケで。
つまりは夏希たち人間が想像するよな、まんま人ん体を成しとる霊におびやかされるなんちゅーことは、俺らんとっても『無いこと』。無いはずのことが起きるいうんは万物とって気味悪い。
ほんで、唯一それに近いことが起きるんがお化け屋敷の類。言い換えれば俺らにも相応のエンターテイメント性はあるっちゅーこっちゃ。
「お、アレじゃねーか?」
「いかにもな外観だな」
水ザブーン系の脇を過ぎた頃、それっぽい雰囲気醸しとるくすんだ灰色の建物が見えてきよった。日曜だけあってぼちぼち並んどるものの、係員が持っとるボードには30分待ちの表示。
「夏希、彼なかなか男前やない?」
「ん? おー本当だ」
「え〜どれどれ〜?」
……そん血みどろ白衣姿の係員の兄チャンにシレっと色めきよる女3人。何や雰囲気台無しにしてスンマセンいう気分にさせられる。
「ぶっ、オマ、それマジで買うたんか?」
「き、記念や記念!」
「ほ〜ん、記念なぁ? ほなオマエ、ギャーギャー言うて落っことしそやし俺が持っといたろか〜?」
「誰がギャーギャーなんか言うかハゲ! 余計なお世話やっちゅーねん!」
どないなるやら思いながらチケット売り場行ったら、今度はひよ里がお化けが一瞬怯みよるとかいうお守りをシレっと購入。金額にして500円の大貢献。寧ろ狙っとんのか言いたなる恰好のネタや。
案の定、外でひとりで待っとくか? やら、ニヤけ顔の羅武にもいじられて更にムキんなりよるアホひとり。そないして完全にひよ里が引かれへん空気なったとこで、いよいよ俺らの入館する番に。
――しゃーけど。
「2組に分かれろだと。どうすんだ?」
「白は拳西と一緒のがええやろし、真子と夏希とひよ里の3人、残りあたしら4人でええんやない?」
「まーそれが無難だろな」
消毒液っぽい臭いがぷんぷんしよる待合室で説明受けた後、何や当たり前のよに苦手組プラス俺、で割り振られたけどもや。
ひよ里は何となしに想像つくねんけど、とにっかく夏希が分からん。
まさかガー! 走り出してもうたりせえへんよな? そんなん見てみたい気もすんねんけど、流石にひよ里んこと気に掛けながらは……ちゅーてもコイツはお化けそのモンが怖いんやないし……。
ここにきて再び不安全開なってもうた俺。そん怪訝な視線に気ぃ付いたんか「はい?」いう顔でこっち見よる夏希。そん隣には何や険しい顔でお守り握っとるひよ里。
……え、ほんま大丈夫なんか? これ。
しゃーけどいざ入ってみたら、俺ん予想も吹っ飛ぶ斜め上展開が待ってたやんか。
お化けに怪我させる率が高そなひよ里を真ん中に、念の為に夏希と俺で両サイドから手ぇ掴んでのファミリー的な並びで、渡されたペンライト片手に最初の病室へ。
ほんなら早速オブジェに見せかけたお化けがぶぁー! 言うて急に動きよった。単純に吃驚してちょおピクてなった俺。夏希も軽く「わっ」言うた程度やってんけど――
「……オマ、早速かい」
そん気色悪い特殊メイクのお化け目掛けてひよ里がバッとお守り突きつけよった。それも、怯んだ隙に逃げるいう本来の用途ガン無視・ガチメンチや。印籠かそれは。
「ひ、ひよ里ちゃん、ぼちぼち次いこ?」
「明らか困ってんでーお化けサン」
暫く唸り声出してはってんけど、そん体勢のまま眼光鋭く睨み続けられて流石に閉口してまったらしい。のっけからの気まずい空気に夏希とハッパかけたったら、フン! なんか鼻ぁ鳴らして踵を返しよった。
……ちゅーか、何でちょっと勝ったみたいな顔してんねん。
そない調子で進んだ先、お化けに会うごとお守り攻撃くり出しよるひよ里に俺らふたりは気が気やない。更に、大部屋でお化けが数人出よった時に至ってはこんなん言いよった。
「こっちは500円も出してんねんぞ! きっちり500円ぶん離れへんアホはいてこますぞハゲ!」
500円分て何やねん。仮にも死んどる設定の相手にむちゃくちゃやで。
そんなんで追っ掛けられるも何ものうて、流石に夏希も笑けてきたらしい。掌で口元を覆いつつ、近くにおったお化けに「何かゴメンナサイ」とかボソて言うたんが聞こえて俺まで吹いてもうたわ。
「いやー、ひよ里ちゃんバッチリ元取ってるね」
「なに笑うてんねんアホ! あんたかてウチのおかげで追われんと済んでんねんぞ」
「ふふふっ、うん、ありがとね」
もう何でもええわいう気分で長い廊下を雑談ながらてくてく歩いとったら、不意にキャーいう悲鳴が聞こえて後ろからバタバタ走って来る音がしてん。
あれが正しい楽しみ方やねんな思いながらその場に立ち止まって様子を窺うとると、高校生ぐらいの女の子ふたりが息を切らしながら現れよった。
「何や、あんたらビビッて逃げてきよったんか? なっさけないのー!」
「だって、もーほんっと、怖くて……」
「ったく、しゃあないの〜。完走したいんやったらウチらについてきぃ」
「えっ、いいんですか!?」
コイツ……!
相手が露骨に怖がっとるて認めた途端、いきなしひよ里は踏ん反り返りよった。コイツほんまとんだ大物やな思とったら、ポカンなってる俺らにまで「ええやんな?」とか偉そな物言いしくさりよって。
「ハァ……ええで」
「私も構わないけど……」
「ありがとうございますー!」
そんなん言うといて、並びは俺、夏希、自分、そん右に女の子ふたりいう順でしっかり真ん中キープしつつ「結構使えんねんで、これ」やら言うてお守り自慢。記念品のくせして機能性グンバツか。
「……ふふっ、相変わらず可愛いねぇ」
「どこがやねん。図太すぎて吃驚するわ、ほんま」
「でもそれはそれで面白いし、それに……ほら」
隣同士コソコソ話しとったら、夏希が何や促すよについ、て右下に目ぇ向けよった。ヒョイて覗いたったそこに見えたんは、女の子らと話しつつも現在進行形で夏希の手ぇ掴んどるひよ里の左手。
思わず漏れた苦笑。暗がりん中で見えたそれに存外和まされてもうた俺は、左からも夏希の手ぇ掴んだって今更ながらボヤいてみる。
「オマエがキャーやら言いよるとこも見てみたいもんやけどな。まともに追われとったら叶ってたか?」
「ん゛ー残念ながらキャーは無いかもなぁ……ぶっちゃけ私もあんまりしつこく追われたらイラッとしちゃうかも」
「もうその、ん゛ーで何や想像つくわ」
「あはは、お里が知れるって話だよね。面目ない」
「ま、わーでもギャーでも、無いより可愛い思うとくわ」
「おっ、寛大」
「ふ、アホか」
結局、長い長い廊下のそん途中、更に桃太郎方式でカップルひと組が追加。これ中で待っとったら皆なで行けたんちゃうんいう総勢7人でもって、残った砦の霊安室へ。
最後の最後までお守りを盾にお化けに喧嘩売り続けよったひよ里。その堂々たる姿に感銘受けはったんか、ゴール直後に4人から拍手まで貰て。
ほんまは怖あて堪らんかったんを知っとる俺らも、よう頑張ったないう気持ちから素直にぱちぱち。スリルもへったくれもあれへん上に思わぬ大所帯なったけど、何やかんやでおもろかったな。
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