新しい隣人 7
ガタンいう音と共に奥ん扉のレバーが下がって、開いた隙間からヒョコて現れよった――猫。
『謎の喜助X』は猫やった。何やシュッとした、灰色の。
いや猫やけど猫やない。ちゃう、猫には猫やねん。猫やねんけど……。
それから呆れ顔の夏希ちゃんが「もー」言いながら現れよった。何やこの猫、ジャンプして自分で扉開けよる技ぁ会得しとるみたいやわ。
「すみません平子さん。猫平気ですか?」
「え、あぁ……好きやで」
あー何やアレルギーやら持っとる人間おるもんな。しゃーけど俺そんなんちゃうし、見た目は普通に可愛い、し……?
「夏希ちゃん。この子、足悪いん?」
「キスケさんはノラだった頃、事故に遭っちゃった子なんですよ」
「……ちょお気になってんけど、何で『キスケ』いう名前にしたん?」
「え? あー喜助さんという方がこの子を助けてくれて。そのまま名前を頂いちゃいました、ふふ」
……ちょお待て。それってそれなんか!?
――夏希ちゃんの話はこうやった。
2年くらい前のある晩、夏希ちゃんは車道の真ん中に倒れとった『キスケ』をたまたま発見。辛うじて生きてるて分かったはええけど、生憎とまるで土地勘あれへん場所。携帯で病院探してみるも、歩いて行けそな距離には無かったらしいわ。
とりあえずタクシー呼んだものの、待っとる間も何したらええんか分かれへんくて、ただ必死に冷たくなりかけとる体抱いて暖めとったとか。
そこに何でか俺もよう知っとる喜助が通り掛かって、夏希ちゃんに声掛けたみたいやねん。
“この子、一晩アタシに預けて貰えないっスか?”
ほんで翌日また同し場所に来い言われて行ったら、足は生涯びっこやけど一命は取り留めたて言われたと。そこまで聞いて完全に俺は確信した。名前もそうやけど、聞いた風貌にこん口調、まー間違いないやろ。
ちゅーてもあれだけヘンテコなモン作り出しよる男や。流石に何をしよったんかまでは俺にも分かれへん。分かれへんけど、何で不安定なんかは何となく分かった。人間やったら俺も、気ぃ付いたかも分からんけど――。
多分この猫、身体と魂魄がむりくり繋がってんねん。
ほんまはもう、そんくらい危うい魂魄や。半分死んどる言うてもおかしないくらい、めっちゃギリギリ。義骸ちゃうし、ソーマフィクサー使うたワケでもなさそやし……しゃーけど、何でや。
何で喜助は、そない不自然な真似までしてこん猫助けたったんか?
にゃ〜……ぁおん
「俺かてそんなん知らん」みたく、『キスケ』が欠伸混じりで鳴いた。
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