交錯する思い 7
「美容ってストイック……」
やらボヤきよる夏希には、オマエが言いなやて心でツッコみつつ、ふたりの会話から俺らと夏希、そん両方にひよ里のくちゃくちゃが解消されたんを確認できて改めて俺はホッとした。
しゃーけどそないに胸を撫で下ろしたとこ、今度はひよ里のふたつ右から何や妙に緊張を孕んだよな気配を感じるやんか。
「みなさーん、こんにちはー!」
いよいよステージに司会のお姉チャン登場。わっと会場中のガキんちょのテンションが上がった途端、更に顔が強張りよった男がひとり。
チラチラ横目で覗っとったら、そん手前におるリサの「アカンわ」いうよな呆れ返った視線とぶつかる。そないなアイコンタクトに気ぃ付きよった右端の羅武も背中越しに肩ぁ竦めて苦笑い。
――リサの羞恥プレイで気ぃ逸れたんも束の間やったか。
“あのバカ、調子乗って絶対なんかやらかすぞ”
頭に浮かぶんは「やべーヤな予感しかしねぇ!」言うてリアルに頭抱えとった昨夜の姿。や、気持ちはめちゃめちゃ分かんねんけどな。
俺もちょいちょいあない顔させられてんねやろか思いながら右隣を見たれば、すかさず「あ? 何やねんハゲ」やら言いくさりよるアホタレに嘆息が漏れる。お互い報われへんのう拳西……。
そないして俺がほろ苦いシンパシー覚えとった間に、定番の「コーンニーチハー」合戦が終了。いかにもなBGMが流れて、いかにもなダミ声が轟くっちゅー王道段取り、やってんけども――
「ボーハッハッハー! じゃなかった、ウワーハッハッハー!」
……何や、最近は怪人もツカミ取らなアカンのんかい。
ご苦労サンやなぁ思とったら、黒マントに黒ブーツ、イガイガ付きショルダー、ベルト、エイリアン系マスクに獣っぽいモサモサ長髪ちゅー、やっぱしいかにもな怪人がステージに現れよって。
ほんでステージの端から端を練り歩きながら客席めがけて指さすわ、ふんぞり返りよるわ、アテレコに合わしてやたら大振りなジェスチャーを展開。
「我が名はダスター! この星を汚しまくって人間どもを滅亡させてやる! 手始めにこのパークのゴミ箱をなくし、そこら中にゴミを撒き散らしてやろう。そうすれば愚かな人間どもは自らポイ捨てしだして自滅するに違いない。ウワーハッハッハー!」
「何や、ダスターめっちゃ悪いやん」
「人間の習性をよう知っとるな」
軽く感心してもうとる右ふたりに、黒幕も出てくるかなー言うてワクワクしとる左の夏希。ちゅーかこの並び、何や無駄にHP削られる気ぃすんねんけど……。
ものどもゆけい! いうダスターの声でステージに目ぇ戻せば、黒い全身タイツの手下ABCDEあたりがわらわら湧いて、紙くずやら空き缶やら撒きだしよったとこ。
「大変! このままじゃ地球がゴミだらけになっちゃう! みんな! 大きな声でウォッシャマンの名前を呼んで! せえーの、ウォッシャマーン!」
ウォッシャマーン!
予想以上の声量に加え、テレッテレーいうテーマソングでどっと沸きよった会場。何や、こんどえらい一体感は。めちゃめちゃ大人気やないかい。
あまりの熱気にポカンなってもうとったら満を持してヒーローら参上。小走りで青、赤、緑、ピンクの順に現れよってステージ中央で仁王立ち……って、おい。
「綺麗な心のあるところ、美しき街あり! 情熱のお掃除戦士、レッドウォッシャー!」
「……」
「……」
「……」
「……」
個人の決め台詞が始まってもうた中、がっつり4人分の視線を集めよる男がひとり。ピアスをぴくぴく揺らしとる眉が「あれ、イエローいないね」いう夏希の暢気なひと言で一気にギュー寄った。
「ハッ、何やパッとせえへん立ち回りやなー。とっととイエロー出さんかいハゲぇ!」
「オマっ、阪神戦ちゃうねんから野次とかやめぇや、みっともない」
オマエたちの好きにはさせない! やら言うて、一旦ヒーローらがダスター軍団ハケさしてんけど、未だ俺らの大本命イエローは不在のままや。
「ママー、今日はイエローどこから来るかなー」
……今日はてどういうことやねん。
痺れ切らし始めよったひよ里を諌めとったとこ、近くのガキんちょの言葉に更に不安を煽られる。
パトロールがてら遊び来たいうのにまたイエロー遅刻かな? いう設定で、イエロー探しにハケるヒーロー4人。誰もおらんようなったステージを固唾を飲んで見とる拳西ん横顔がシュールすぎてかなわん。
「くそう、ウォッシャマンめ……」
「何を手こずっているのだ、ダスター」
「はっ、この声は! 大王キシンさま!」
「あー、やっぱ黒幕は声だけの出演かぁ」
「まーそないにホイホイ出されへんやろ」
再びステージに現れて見えない主に跪いてみせよるダスター。唯一の救いはこないして首元でフライヤーをパタパタさしとる夏希が、俺を盾にこっちの空気をまるで感知できひん左端やいうこと。
しっかし辛うじて風はあるものの、上からの照りつけが半端やない。換気ついでに横からハンチングでぶんぶん扇いだった俺に、夏希は「ありがとう助かるー」言うてふにゃんて顔を緩めよった。
――こらやっぱしお化け屋敷連行したるべきちゃうやろか。
「おっと動くなよ? ウォッシャマン。こいつがどうなってもいいのか?」
「ぐっ、卑怯だぞダスター!」
「今のうちだ! ものどもかかれ!」
そうこうしとる間に黒幕からヒント得たダスターはパークのお掃除兄チャンを拉致。そこへ駆けつけたヒーロー、人質捕られての大ピンチ。ウォッシャマン頑張れー! いう純真な声援が涙ぐましい限りや。
「そこまでよ! ダスター!」
!?
そんなん思とったら突如きこえた女声。ニューBGMが流れる中、さっきのガキんちょが「ママ、イエローいたよ!」言うて指さしよった先を恐る恐る辿ったったら――
……6、7メートルはありそなルーフん上、見慣れたオレンジマフラー靡かせながらシャキーン現れた人影ひとつ。
「おー白! 早いとこいてまえやー!」
ゴクて思わず生唾飲んでもうた俺。隣でごっつテンション上がりよったひよ里。ふたつ飛ばした右で額に手ぇやってうな垂れる拳西。そん両脇でリサと羅武が呆然とした顔で上ぇ見つめとる。
「ほう? ずいぶん遅いお出ましだなイエローウォッシャー。だが残念だったな、今さら現れたところで貴様に出来ることなど何もない!」
「ふっふーん、それはどうかしらー?」
チッチッチッ、みたく人差し指を動かしてみせよる黄色スーツが眩しい。
「ちょ、まさかあの高さから!?」いう夏希の不安も空しく、たっ! いう短い声と共に小走りでルーフ際まで詰めよったイエロー、もとい白。
アカンあいつやりよる! 思うた瞬間――
「っ! ……ふー」
4つの口からほぼ同時に漏れた安堵の息。ポーン飛び降りよるか思うた白は、天井の骨組みに鉄棒みたくぷら〜んてぶら下がりよった。白の身長ぶん縮まりよった今、まーギリ人間技ん範囲か思える高さや。
「え、てか大丈夫なの? ほんと」
「あー心配せんでもアイツ関節がおっそろしゅう柔らかいねんから大丈夫やで」
俺が未だ横でハラハラしとる夏希を宥めとる間に、そのまま前後に体を揺らし始めよった白。得意のアレが出るな思うた時にはパッと手ぇ離して、掃除の兄チャン拘束しとるダスターと、そん手下どもに群がられとるお仲間とのちょうど中間あたりにシュタッて見事な伸身宙返りを決めよって。
わぁ! いう歓声も収まらん内にダスター目掛けて、たー! いう声で見事な飛び蹴りをかまして掃除の兄チャン救出。
……ちゅーかアイツ、完全にレッドのポジ食っとんな。
「うわー凄い! え、なに白ちゃんって体操か何かやってたとか!?」
「んあ、ま、まーそんなとこやな」
目ぇキラッキラさして聞いてきよる夏希に曖昧に返しつつ「ごっめーん! 道に迷っちゃってー」やら言うて、てへ! みたく頭に手ぇやりよる白とお仲間の寸劇をぬるい心地で眺める。
「よーし全員揃ったところで、サイクロンフォーメションだ!」
ほんでもってレッドん掛け声で袖からどでかいハリボテ掃除機登場。それを5人で囲んでサイクロンビーム! ……って、いやおもくそ吸うとるやん。
「ぐっ! か、体が〜……ぐはぁ!」
ビームちゅー名の何かに吸われてもうてダスター軍団退場。考えんな・感じるんや的な空気の中、ともあれようやっと大団円。不安にすり減らされた俺らの心も大団円。
「よし、お掃除完了だ! ウォッシャ! ビクトリー!」
ビクトリー!
しゃーから最後はノったモン勝ち。大の大人6人でガッツポーズしたった気分は、そうは味われへんえらい爽快なもんやった。
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