交錯する思い 2
……しっかし、どうにも霊術院ぶち込みたなってしゃあないわ。
ソファに片肘ついて寝っ転がりながら、リモコンで早戻ししたること数回。何とも言われへん気分で首ぃさすりつつ、起き上がってテーブル上の煙草に手ぇ伸ばす。
火ぃ点けよ思てレバーに指かけたったとこで、うっかり一時停止中の画面チラ見してもうてまぁた溜め息が漏れた。アカン、通算何度目や。
大体このオッサンもボハボハ言いながら何してんねんちゅー話や。なまじ能力持っとる無知な人間いうんはタチ悪いなーほんま。
「……そら夏希に稲淳のがええも言われるわ」
実際、何も見えへん上にあくまで涼狙いの夏希に至っては、今回も凄まじい視聴者置いてけぼり感だなーやら妙な感心しとった始末。まー俺も俺で途中まで、ギャラなんぼ貰うてんねやろな、やら言うてたクチやけど。
ほんでCM中、ほんなら今度の白のショーついでにそこのお化け屋敷でも入るか? 言うたら「悪いことしてないのに人に追いかけられたくない」の一言で一蹴やんか。
いやオマエそこは人て言うなやぁー人やけどーやら言うてたら、CM明けいきなしオレンジ頭の兄チャンVS不憫な元地縛霊の兄チャンなってて、ああコイツか、と。
しゃーけど気ぃ付いたら付いたで、筋は悪ないだけに何やそのざつい戦闘にムズムズして堪らんようなってもうて。
そないな俺の様子に、あまりにつまらんくてイライラ丸入りよった思うたんか「もう寝よっか?」言いよる夏希に、しゃーけどここまで見て最後まで見いひんかったら負けやろ、いうありがちな力技で続行。
結局ずっとポッカーンやった夏希には悪いねんけど、違う意味で溜まってもうた鬱憤をグッナイベイビーなった瞬間「何やねん!」やら叫んで晴らしてちょいスッキリ。
ほんでそっから二日寝かして今日、飲み会まで時間あるし思て一人リベンジ決行。でもって止まらん溜め息。俺、今めっちゃ幸薄いんちゃうん。
……しゃーけど、ここが空座町やのうて良かったわ、ほんま。
実際の霊圧がどないなモンか分かれへんけど、コントロールもよう出来へんヤツが近所で戦闘おっぱじめるなんか、色んな意味で恐すぎるやろ。
「そんなんなって一番ヤバイのオマエやねんよなぁ……のぅ? キスケ」
リビングの隅で絶賛食事中の毛玉に声掛けたったら、あんましかったるそに振り向きよったもんで、ほんまとことん自由やな思てちょっと笑けた。
「ほな、めんどくなってまう前にちゃっとシャワー浴びるかぁ〜」
腿をパシン叩いて立ち上がったったとこで、ふとカウンターの卓上カレンダーに目ぇが留まった。もう一週間も無い。
……あのアホ、ちゃんと来るんやろな?
様子見が続いとる中 迎えた夏本番。まー暑いし、根詰めて悶々と考えててもしんどいだけ。状況に合わして各自やれることやっとこ。
徐々に皆なそない空気に落ち着いて行きよる中、ひよ里んアホだけがそこに着地でけへんと、ひとりずっと空中でこんがらかっとるままでおる。
“オマエには関係ないわハゲ!”
アイツがムッスリモード突入しよったタイミングといい、この言い草といい、それが白と夏希絡みやいうことは何となしに分かっとった。理由こそ口割らんものの、わりかし分かりやすい悪態吐きよるからな。喜助が隊長なった頃然りや。
ただ、肝心の何がそないおもんないのかはサッパリやってんやんか。
“ハッキリは言わへんけど、こないな時まであたしらの都合ふりかざすみたいでええ気せんのとちゃう?”
しゃーけど先月のリサからの電話で、ああ、ひよ里と夏希はめちゃめちゃシンプルに友達なんやて改めて思わされてもうた。最初こそ夏希に喜助の面影見てどないヤツや思て踏み込んだったに過ぎひんかったにしろ、『俺んとこのお隣サン』なんちゅー仲間経由やのうて、ほんま直結で仲良うなっててん。
しゃーから、このまんまずっと関係ない場所におって欲しいんやろな。ひたっすらニュートラルに徹して話きいてくれよる今のまま。それこそ、携帯トランシーバーされるぐらいの距離感と、気楽さで。
――ある意味それが、一番遠くて一番身近な『いつも通り』やねんか。ひよ里にも、俺んとってもな。
“誰も不服なんか言うてへんわハゲ!”
不服なワケやない。ただ、こないな時やからこそ確実に平行さしときたい。何も知らんのをええことに都合よく駆り出したり、蚊帳ん外やったり。そないに中途半端に交らせたない……それ言うたら、ぶっちゃけ俺かてむっちゃフクザツやねんけども。
しゃーけど、白もアレで何やかんや遠慮してくれとったワケで。
ほなそん白を会うてみたい気にさしたんはー言うたら完全に俺らふたり。それはひよ里かて分かっとるはずや。そん証拠に白と口聞かんよなガキみたぁな真似はしてへん。ムッスリにはムッスリやけど。
ともあれ、まー行きたないんか行かれへんのかは知らんけど、別に無理せんでもええんちゃうかー思て、特に俺は何も言わんといてん。
――え? なったんは先週のこと。
「ふふっ、7人でどう分担するんだろ。ある意味楽しみだなぁ」
約束ん日のショーが郊外のテーマパークなんに加えて、車やったらポストコ通るし、帰りにでもまた皆なで買い物しよかーいう話なったんはええとしてや。
俺、羅武、拳西で3やろ? ほんでもって夏希にリサ、向こうで合流予定の白で……7や言うたよな? それもむっちゃフツーに。
思わず無言なってもうた俺を、ん? 言うて振り返りよった夏希の様子からも、何の不自然さも感じひんかった。幸い背後から抱き締めとったもんで、何やごっつい疲れそやなーやらテキトー言うて誤魔化したったけども。
ちゅーか何やアイツ、まだ夏希に言うてないんか?
しゃーけど流石に連絡もせんとすっぽかすよな真似しよるとは思えへん。ほなアレか、まだ何かくちゃくちゃ迷うとんのか? ったく、しょーもな。
オマエほんまは行きたいんちゃうか〜? やらツッコんだろかも思たけど、よう考えたら俺かて直接は何も言われてへんねやんか。
まー男の俺が下手にしゃしゃってややこしいことなっても微妙やし、ほな俺も『何も知らん人』通したろ思て今まで静観しとるけど、案の定なんも無し。
「くぉれで土壇場なってガックシなんかさせよったらオマエ……ギッチギチにお仕置きしたんねんぞコラ」
言いながらカレンダーの赤い15をデコピンよろしくパチン弾いたった俺は、アジトとここ、おんっなし顔で携帯見てハァ溜め息吐いとった2人を思い出して、ぷっ、て吹いてもうた。
――どんだけラブラブやっちゅーねん。
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