動き出す過去 10
……けちょんけちょん?
何や言いたげな夏希の視線を遮るよにペッとタンクトップ放りつけて、ほれちゃっちゃ寝んでーやら言うて誤魔化したった俺。せやかてヤるて決めたからには「優しくしたる」なんちゅーてこれ見よがしに気遣うなんかやっすいメロドラマやあるまいしキショいやんけ。
――二日酔いのオマエ相手に誰が本気なんか出したるかい、もっぺんシャワー浴びんくて済むようしたっただけじゃボケ。
ブツブツ自分に言い聞かすことで、どうにも面映い心の体裁整えながら床に散らばっとるボクサーやらTシャツやらを拾い上げる。
「よっ」
「ほっ」
「……」
「……」
足を通したスエットをちょい弾みつけて引っ張り上げたったとこで、何や妙な掛け声がかぶせてきよったで思て。見ればソファで仰向けに寝っ転がったまんま夏希もウエストに手ぇ掛けとったやんか。何のタイミングが合うてんねん、アホか俺ら。
軽くツボりよったんか、腹を上下さしながらアハハて楽しそに笑いよる夏希に苦笑しつつ、なぁ、て呼んだれば、ん? 言うた顔がこっち向きよった。
「なんぼでも言いや」
「え?」
「言うたやろ? こんなんでも男の子やて。甘えるんが与えることに繋がる場合もあんねんで? ……って、まーコレ羅武の受け売りやねんけども」
「真子……」
ぶっちゃけ話きいた直後は今の状況でこんなん言うてええもんか迷うたけど、今の俺のほんまの気持ちを言うとくんが夏希に応えることや思うた。
――しんどい言うたらもっとしんどなるよな性分の夏希にとって、簡単なことやなかったはずやから。
「ここんとこ何やバタバタしとって悪いねんけど、俺んとってソレはソレ、コレはコレや。俺に話すことでオマエのケジメなんねやったら言うたらええ、なんぼでもな」
神妙な顔つきなってムクて体起こしよった夏希は、かいた胡坐のクロス部分を掴んでひと言「ありがとう」言うてペコて頭下げよった。
何や殊勝なその姿が妙に可愛いかって、きっつい葛藤に立たされた夏希には悪いけど、今日ばっかしはジョーに感謝やな思うてもうたわ。
ベッド入るなりコテっと落ちよった夏希。そん頬っぺたぐにって摘んだりながら、明日も休みなら良かったんになーなんかボヤいてみてんけど。
そうは言うても、今日の一件かて結局はコイツが明日も店に立つことに繋がんねやろな、思うて苦笑が漏れる。
……ほんま、あの店長サンはよう分かってはるわ。
夏希の拘りはビジネスライクに割り切れるもんやない。『自分にはそん術がある』いう事実と人並の良心、そんふたつの前で自分ひとりの決心はブレやすい。
しゃーけど同時に誰かとの約束やったら嫌でもチラついてまう。それがここっちゅー時、何よりの歯止めんなってくれんねやんか。
"俺にはその責任ってヤツがあるんです”
ほんでもって多分、寧ろそん約束を夏希ん中でもメインにして貰た方が、あの人の気もラクやと思うねんけど……ま、そうも行かへんやろなぁ。
「明日は何か美味いモン作ったるからな」
久々に集まりもないことやし思いながら、出窓ん外の夜空に「朝までには止ましとけよ」やら怨念送っとったら、脇の俺ん携帯がヴー! なんか言いよって。
アホか何を鳴らしてんねん! て焦って取ったった途端に沈黙。ハァ? 思いつつ、とりあえず振り返って夏希を起こさんかったか確認してんけど、まースーパーぐっすりや。
ホッとして向き直った俺は液晶の『喜助』いう表示見て、そういや昼にこっちから掛けたんやったて思い出し、そろ、てベッド降りて寝室を後にした。
「ボハハハハー! こんばんはっス〜平子サ〜ン!」
「……グッナイベイビーや、ドン喜助」
ピッ
通話時間5秒。用心してわざわざ自分の部屋で掛け直したった俺がアホやった思て、自分のベッドの上に携帯をボーン! 叩っつけたった。
夜 中 の 3 時 やっちゅーねん! 今こそ『夜分すいません』ちゃうんかコラ! 何やねんそのテンション、アホか!
ワナワナしとったら毛布に沈みよった携帯がテイクツー求めてブーブーブーブーブーブーブーブー……ったく、しゃーないのう。
「夜分スイマセンねぇ。ア、ひょっとしてお取り込み中だったっスか〜?」
「もう終わったわ。ちゅーか明らかに気ぃ遣う方向 間違うてるやんな」
「んまっ! 随分と仲がよろしいようで〜」
……コイツ、マジでいっぺんドツいたらなアカンな。会うた瞬間ばちこんや。
ちゅーかちょっと会われへん内に何でそない俗っぽいオバハンみたくなっとんねん、意味わかれへん。
「ジブンしんどいなーほんまぁ……あんな、思春期真っ只中ちゃうねんぞ? そんなんにいちいち反応するかっちゅーねん!」
「いやぁ〜それなんス。ここのところ若者の動向を窺ってばかりなもんで、大人の話が恋しくなっちゃいましてねぇ」
「若者……?」
「ええ、恐らく平子サンがお聞きになりたい人物に相違ないかと」
――前座が長いっちゅーねん、はよそれ言わんかいボケぇ。
喜助の話によれば、例の死神少女から能力譲り受けたんはまさかの高校生男子。身の丈に合わんドでかい霊圧が制御し切れへんとだだ漏れやいうのも、確かに血気盛んな若者ちゅー感じや。
ほんで今は何や改造魂魄に体預けて、死神少女と一緒にせっせと虚退治に励む日々を送っとるらしいわ。
「何や、ここんとこ大気がザワついとる思うたらそれかい。まぁたとんだ坊チャンやなぁ〜」
「あれま、そちらまで影響出ちゃってますか」
「ちゅーても霊圧の認識までは出来てへんし、ビミョーに違和感覚えとった程度やけどな」
「なるほど。違和感、ねぇ……あぁ、そういやそちらの皆サンの様子はどうっスか?」
何や思うとこありそな口ぶりやってんけど、まー慎重な男や。こないな切り替えし方しよったコイツに突っ込んだとこで濁されて終いに決まっとる。
まーええか思て煙草を咥えた俺は、せやなぁ〜言いながらチラて窓に目ぇ向けた。俺の怨念が届いたか知らんけど、パラパラ程度にはなったか?
「それなりにゴタゴタしてんで。何が厄介てオマエの部下やろ? それにオマエの部下、あとはオマエの部下や」
「アハハ、相変わらずみたいっスねぇ……」
「いや、それが相変わらずちゃうねんて。想像つかへんかも分からんけどな、あのアホ夏希にえらい懐いてんねんで」
そないに言うた俺がフー煙吐いて一拍、携帯の向こうから「えぇ〜!?」いうマスオさん入りよった喜助の声が届いた。
ちゅーても、まーそうなるわな。死神同士でもさらっとは打ち解けられへんヤツが、毛嫌いしとった人間に懐いてんねやから。
――それも誰より先に、自分から。
「まー今となっちゃそれはもうええねん。俺かて仲良うせえ言うたクチやし」
「おや、それまた意外な話っスね。ちなみに夏希サンには何と……?」
「んあぁ……仲間やいう以外は何も言うてへん。俺も、ひよ里もな」
「……その場の必要以上のことは聞いてこないっスもんね、彼女。距離を詰めてこようとはしない、というか」
……ほーか、喜助も夏希と話したことあんねんもんな。
まー大概うさんくさいコイツをそれなりに警戒しててんのと、キスケが無事やったらそれで良し、やってんやろな、夏希には。
そないにアイツん思考が想像出来る自分に気ぃ付いて、思わずちょっと笑うてもうてんけど、ただ――
「ふ、アホ言いなや。オマエかてひよ里相手にそんなんせえへんかったやんけ。距離は詰めるもんやない、縮めるもんやろ」
しゃーからあのスカポンタンな天邪鬼も、オマエや夏希に気ぃ許しよってんやんか。……ちゅーてもその結果、アイツん中でも今一番関係ない夏希に矢印が向き過ぎてもうて、一層ややこしいことなっとるワケやねんけども。
"ひよ里、白のヒーローショーに行かん言い出しよったで”
数時間前、夏希が起きる前に掛かってきよったリサからの電話は、俺を憂鬱にさせるに充分すぎる内容やった。
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