動き出す過去 3
「せやからウチらでとっとと藍染のハゲぶちのめしたんねん!」
「なに言ってんだバカ! お前はこの100年を無駄にする気か!」
ひよ里を端にこないなるなんか想定済み。そこに直情的に乗っかりよるんが拳西やっちゅーことも。
「落ち着きやひよ里! そない段階で動いてどっちが分が悪いかあんたかて分かるやろ!」
「リサ! アンタまで何ビビッとんねん! 向こうに乗り込むぐらいせえへんでどないすんねん!」
ほんでもって止めに入ってとばっちり食ろうてまうんは、羅武かローズあたりて踏んでてんけど今日はリサやった。こら荒れる。
「リサの言う通りだよ、ひよ里。やっと尻尾を掴むきっかけが出来たかもしれ――」
「あんたは黙っときゃあローズ! ひよ里、あたしらかて同し気持ちに決まっとるやろ! あんた何でそれが分からんの!」
「まー俺らが尸魂界に身ぃ潜めるなんつったら現世よりリスクがでかいなんざ――」
「えーあたしたち虚化できるんだよー? バレたとこで平気に決まってるじゃーん! ねーひよりん!」
同調して諌めたるつもりやったローズも、ビビッとるやら言われて火ぃ点いてもうたリサにピシャリ言われて不愉快ヅラ。ここらで道理でも突いて空気変えたろっちゅー腹やった羅武も、根拠サッパリで息巻く白にかったるそうに溜め息ひとつ。
ほんでまたそない白に拳西から、いいからお前は黙ってろ! が飛んでっちゅー流れの間にも、ひよ里の口はヒートアップの一途。怪獣や怪獣。
そないしていよいよ収拾つかへん6人と、せやってもひたすら傍観を決め込んどる俺とを、ハッチがオロオロするまま交互に見遣っとる。
ええねん、これで。
動く時は突然。なんぼそれを頭で分かってても、いざいきなし動くかも言われて心の底から平静でおれるヤツなんか、俺を含めここにはひとりもおらん。
長い年月と理性で奥底に抑え込んできた燻火は、たった一滴の不確かな兆しにかて引火して、感情はひとりでに先走りよる。
『死神少女が捕捉され次第、すぐ実行に移せるよう尸魂界へ行って身ぃ潜めとく』
ひよ里がそないめちゃめちゃな発想に至ってまうのも、それを皆ながいつも通りに上手いこと受け流せへんのも当然いう話。寧ろ今の内に思っきしぶつかっといた方がええやろ、やら、まー暫くはちょいちょいこじれるやろな、やら分析しとる一方で。
あの眼鏡ん名前が飛び交いよるこん状況にあてられて、勝手にひくつきよる俺んこめかみがけったくそ悪うてしゃあない。
「もう充分待ったんとちゃうんか! 何でウチらがこない我慢せなアカンねん! なぁ!」
どうにも居た堪れへんくなったんか、殆ど泣き叫ぶよな声で言い捨てよったひよ里がバッとホールから出て行きよった。残った面々はやりきれんっちゅー面持ちで暫く押し黙っててんけど、ひとり、またひとりいう感じでそれぞれ出口へ向かいよる。
「……大目に見たりや、リサ」
「分かっとるわ。あんたこそさっさと夏希のとこ帰ったり――」
「あっ、リサちん待ってよ〜!」
拳西、ローズ、羅武に続いて、客席から立ち上がりよったリサん背中にひと声かけたら、今イチ気ぃ治まってへんのかえらいズケズケ痛いとこ突いてきよってんけど。
それが何より、付き従うべき主と離れ離れなってもうたリサ自身、ほんまはほんまにひよ里と同し気持ちやて物語っとるよに思えてならんかった。
“いつまで一緒おれるか分からへんやろ”
翌日キスケに起こされてリビング行ったら、何やまぁた携帯トランシーバーしとる夏希が、俺に気ぃ付いて「おはようさん」みたくヒラて手ぇ上げよった。
あのアホひと晩でしゃかりきに元気なっとるやんけ、思いながら夏希がおるソファにすたすた向て「貸し」て口パクで言うて掌見せる。え? みたく見上げよったそん顔にずいってデコつけて「ええから貸し」て半目で圧かけたれば、そろ、て俺ん手に携帯を乗せよった。
バトンタッチされたんも知らんと、受話口からは未だギャイギャイ音割れした声が響いとる。壊れたラジオかっちゅーねん。
……ピッ。
「あっ……えー!」
知らん顔でしれっと終了押したれば、単純に代わるだけ思とったんか、えらい仰天しよった夏希のリアクションが小気味ええ。
案の定1分もせえへん内にかかってきよったそれに、ンッンーて咳払いしてから通話を押す。
「ちょ、切れたで夏希! 電波悪なってんか?」
「……ただいま大変混み合うとりますー。そのまま一生お待ちになるか、そんザル頭をどうにかしたってからお掛け直し下さい」
「あぁ!? 何やねんハゲコラァ!」
「やかまし! いつまでベラベラベラベラ愚痴っとんねん! オマエも午後からバイトちゃうんかボケぇ!」
そこでようやっと「アカン! もうこない時間やん!」やら叫んだ思たらソッコーでプツて切りよったやんか。うーわ、あのボケ考えられへん! 夏希に聞いてくれておおきにも言わんのかい!
しゃあない思た俺は、今までのアホ丸出しなやりとりを煙草を燻らせつつボーっ見とった本人に携帯返して、だりん、て首垂れたった。
「ひよ里のアホたれがすんません……」
「ぶっ……あはははは!」
もはや兄チャンか父チャンか分からんよな俺ん素振りに、夏希は盛大に大ウケしよってんけど。寄っかかり方がちゃうだけで、ほんまは俺かて、ひよ里んこと言えたもんなんかやない。
「ほな、びゃっと行ってちゃっと飯作ってシュッと帰って来るわ」
「あはは、うん気を付けてね」
雨降りの火曜。こないな時かてバイトはバイト。腕に抱っこされたキスケをひと撫でしたってから、夏希の笑顔に送り出して貰て下ぁ降りる。
ほんならちょうどどっかから帰ってきよったらしい松田にバッタリ。怪訝な顔で聞かれて改めて思わされてもうた。
「あの、昨日リサさん何かあったとか聞いてませんか……?」
2月の焼肉以降、ごくたまにメールしとるっちゅーんは俺も夏希も聞いててん。
ただ実際んとこ松田んとっちゃ女神すぎて口説くなんちゅう対象やないらしく、バイトお疲れ様でしたー送って、あんたも頑張りやーやら返ってくる程度いう話やった。
せやのに昨日、初めて向こうから来た驚きに加えて、そん内容が「今日は疲れたわ」のひと言やったと。
「普通に『ゆっくり休んで下さい』って返しちゃったんですけど、何だか気になって……」
「……充分やったんちゃうん、それで」
多分、そない何でもない言葉が欲しなってオマエにメールしてんやろ。
昨夜はそれぞれ、自分の手に負えん勢いで逆巻きよるもん持て余しとったはずで。
“……帰ってもええか、オマエんとこ”
自分のそれやり過ごす方法を知っとった俺は、そん確信があって夏希の顔見に戻ってんやから尚のことタチが悪い。
――救われてばっかしやんな、俺は。
- 137 -
[*前] | [次#]
しおり
ページ:
章:
Main | Long | Menu