新しい隣人 2
古さも然ることながら、駅やスーパーへもやや距離のある立地。加えて駐車場が無いこともあり、ここ1年くらい隣とその下は空き部屋だった。
それでいて既に3回更新経験がある私は、言うまでもなく現住人の中で一番長い。
『住んでみて初めてその良さが分かる』
ここはまさにそういう物件だ。それ故、ひと度埋まった部屋がなかなか空かない代わりに、空いたら空いたでまた長い。
貸主である老夫婦は、最寄駅から電車で約30分ほどの空座町に住んでいる。顔を合わす機会こそ少ないが、今では何かあれば最初に連絡を取り合う間柄。
「今の若い人は、もっとお洒落で便利なマンションを好むものねぇ……駐車場が無いからファミリーにも敬遠されちゃうし」
「ここもさり気なくお洒落だと思いますよー? あの上げ下げ窓、私大好き」
「ふふっ、夏希ちゃんみたいに思ってくれる子、今は珍しいんじゃないかしら」
嬉しそうに、でも少し寂しそうに漏らしていたおばちゃんを思い出し、何だか感慨深い気持ちになった。このドンチャン騒ぎっぷり、若者が入居したと見てまず間違いないさそうだ。
しかし、いつの間に決まったのだろう? おばちゃんから報告も無く、クリーニング業者が入ったことにすら気付かなかったことなど未だかつて一度もない。
まぁ、何はともあれ万々歳。
残りの階段を、極力音を立てないようにして上った私は、向かいの扉に向かって「よろしく」の気持ちを込めて一礼。それからやっぱりなるべく静かに鍵を開け、そっと自分の部屋へ入った。
――何だか、とても楽しそうだったから。
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