充電と放電 3
ヒィヒィ言いながら笑うとる夏希の姿見て、敢えて言わんといたことが俺にはふたつあった。
俺のノリツッコミに「マジですか!?」言うてシャレならんぐらい目ぇ真ん丸にさしよったジョー。しゃーけどそれは、アイツん中にお隣サン同士でそないなことなっとるいう頭が皆無やっただけみたいやってん。
それ聞いて俺も、確かにまー現実そない『あるある』なことの括りには入られへんな思うた。ただ、それを自虐ネタにしたったことで夏希がドカーン笑いよったんがえらい気持ちええもんやって、要らん種明かしやんな思てんわ。
ほんで更に言うたらもう一個なんか、むっちゃテンション上がる朗報伝えたった俺自らそれぇ下げるよなビミョ〜な話。
「ふふっ、てか多いとき普通に3回だよね」
「んあぁ〜せやねんなぁ〜流石に3回ともなると俺も何をそない出急ぐことがあんねん思うわ」
――多分コイツに、哀しい顔さしてまうだけの話や。
何回か話した感じ、ジョーっちゅう男は見た目の爽やかさと違わん明るさやし懐っこいしで、悪いヤツちゃうとは思う。
“どうやって落としたんですかー?”
しゃーけどちょいちょい、ジブンもう1、2歩ばかし考え足りひんのとちゃうか? 言いたなる物言いをしよるとこがある。
実際、男同士の会話ではようある言い草やねんけど、言うてもアパートのご近所サン。そこっまで気心は知れとらんやんか。せやのに何やまるで同し合コンかなんか行って「昨日お持ち帰りした女どやったんですかー?」やら聞くよなノリ。
“あーすみません! 平子さんイケメンですもんね!”
やー何となしにこうなってん言うたった俺に、えらい慌てた様子でズレた謝罪しよったジョー。ほんま悪気は無いんやろうけど、何ちゅーかとにっかく浅い、浅いねん。
浅いから、自分の感じたまんまを容易く口に出来んねんな。
ちゅーてもジョーは来たばっかし。歳も夏希よか2つ3つ下っちゅーんを考えても、それを悪いとは思わへんし何や言うたる気もないけども。
思わん代わりに、同し営業やっとるんでも斉藤サンはあないマシンガンでえらい機転の利きよる人なんやなーて今更感心してもうた。
「……はーっ、笑った笑った。腹筋にキタ」
「そらええこっちゃ、せーぜー今の内から鍛えときや」
ほんでもって、こないして箸が転げても笑いそな勢いでツボりよった夏希も、大事な人んことほど簡単には口にせえへん。
「ん、なんで?」
「アホ、反応反射音速光速! やっちゅーねん。言うとくけど手ぇ抜かへんで俺」
「え、飛ぶ気? 温泉卓球で?」
しゃーから松田んこともそうやけど、俺はほんま最近まで張サンの古琴の意味を知らんかってんやんか。ちゅーても薬指の指輪には気ぃ付いとったもんで、それに関してそうかもは薄々思うててんけどな。人の事情の幅なんちゅうもんは目に見えるよりずっと広くて深くて、計り知れんもんや。
“私お嫁サンの悪いもの取れなかった。だから沢山沢山取ってから会いに行くね!”
そこがどないなとこなんかはよう知っとる俺やけど、せやっても会えたらええなぁて、ほんまにそう思た。
ただこん時の俺はまだ、知らんかってん――夏希が俺の言わんかったことをもう耳にしとって、もしかしたらいうモヤモヤを抱えとったことを。
――5月9日。
明日の夜は仲間と酒盛り。明後日から夏希と温泉。ほんでもって今日は、バイト明けに中番と遅番の休みんヤツらが奢ってくれるらしい。
夏希は夏希で、店ん仲間と軽く飯行くけど、皆な旅行の準備あるやろうから日ぃ変わらん内にお開きなると思う言うとった。
ちゅーても俺のが早いやろ思うててんけど、逃げた前科のある俺にHoly飲み専メンツの守備は中々に固かってん。しゃーけど夕方過ぎからスタートしただけあって、今から帰るいう夏希の電話があった頃には俺抜いて全員ベロッベロ。
「ほな俺ぼちぼち帰るわぁ。ほんま今日はおおきにな」
「え〜ちょ〜しゅ〜や〜くぅ〜! てかアレ……? チワワちゃんは〜?」
「んあ? とうに帰りよったで」
「ぅえ〜!? いつの間に〜!?」
最近チワワちゃんはむっちゃイケメンらしいニュー彼氏にめっきりご執心な様子で、バイト終わるとマッハで帰りよる。本人は束縛されるとかってようブーたれとるけど、相っ変わらず気持ちええくらい分かりやすい子やなぁ思てちょっと笑けてまう。
――ほんで大概、ちょっと平子くんマジメに聞いてるー!? て怒られる。
ほんま平和で何よりや思いながら、ほななー言うて俺はそそくさと居酒屋を後にしたった。
外は酒の入った体にはちょおぬるいくらいの陽気やって、自販で買うたミネラルウォーター飲み飲みアパートを目指す。
しっかし俺、歳食いすぎやんなぁ……。
死神やった頃は俺くらいの年端のヤツなんかゴロゴロいてたし、そもそも歳とか何の目安にもなられへん数字、どうでもええもんやったけど。
さすがに現世ん感覚が染み付いてまった今は、俺てもしか超絶ド変態レベルのロリコンなんか? も思うやんか。ほんでちょっとばかし凹むやんか。
……いや俺は変態ちゃう! あれや、夏希のアホがジジイ好きのド変態なだけや! そぉ〜や絶対そうやわ!
しょーもない自慰的な屁理屈コネたったついでに、ここはいっちょ物申したろなんか思て俺は携帯を取り出した。
プルルルル……プッ
「まいど。着きよったか? ド変態」
「え、何で?」
「ぶはっ」
いきなしのド変態呼ばわりにごっつええ間で『何で』。それもしっかり西イントネーションで返してきよったで、夏希のヤツ。
「夏希、オマエほんま最っ高やな」
「ふふっ、うん知ってる」
「くく。アホや、アホの子がおる」
ひとしきりケタケタ笑い合うてから、ぼちぼち着くから風呂貯めといたってくれへんかーいう本題を俺が告げて、そん後。
ほーい言うた夏希の後ろで、ピンポーンいう音がしよった。
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