春の憂鬱 6
多分、季節も人も変わり目っちゅーやつで、何となく考えてまうだけやろなて、どっかで分かってはおんねん。
「……言うてもお年頃やしなぁ、夏希も」
実際、聞いとる限りでも夏希の周りは結婚ラッシュ。とうにしよった中には既に二児の母だか父だかなってる人らもいてるとか。
「ふっ、寧ろ父親みたいな口ぶりじゃないですか」
まー両親が両親やし、世情に左右されるタイプやないっちゅーんも分かっとる。夏希自身、俺に「今日どやったん?」聞かれた流れなんかで話題にしよるだけ。
しゃーけどあくまでそれは、今の話や。
例えば5年後の夏希がどない気持ちなっとるかなんか、誰にもどころか本人かて分かるはずもない。別にええねんで? どない形やってもアイツが髪を好きでおり続けられてて笑うとったら、それでなぁ。
「……そうやって考えて貰えるだけでも夏希さん幸せだと思いますよ」
「松田、オマエ……」
あくまで淡々と言いよる松田ん方を真顔でジー見た俺は、わざとちょっとトーン落として言うたった。
「間違うてたらすまん、オマエひょっとして……俺んこと好きなんか?」
「なっ、はいぃ!?」
「いやぁ〜前々から思うててんやんかぁ。なんっか俺には優しいやんなぁ〜て。ツンデレてそんなんやろ? しゃーけど俺両刀ちゃうし夏希かておるし……なんか、ごめんなぁ?」
「……何で僕が微妙にふられた的な感じになってるんですか。大体ツンデレっていうのはですね、平子さん――」
俺のボケに裏返った声出しよった松田は、しゃーけど何や別んスイッチが入りよったんか、えらい熱く『ツンデレ』について説明し出しよった。ふんふん聞いたるふりして内心で苦笑しつつ、もっぺんチラて夏希を見る。
ただな、時々考えてまうやんか。
おれて後数年かそこら、記換神機使うたったとこで俺とおった分の時間が戻るっちゅーわけやない。未来に何の責任も果たされへん俺が、オマエの短い人生の選択肢ん幅、狭めることなってもうたりせんやろか、て不安にもなんねん。
“なぁ、”
――オマエはこん先、どない感じにいきたい思てんねんか?
俺と松田が3人の元へ戻ると、おにぎりをパクつくひよ里が何やまた景気の悪い愚痴を零しとった。……しっかもツインテの両ゴムに桜ぁ挿さっとるやんか。何や根負けしよるなんかえらい珍しなぁ。
「せやのに4月んなった途端、来月まで待ってくれるぅー? なんか言いくさりよってんで!?」
「えー! だってひよ里ちゃん、急なシフト変更にも応じてるし相当入ってるよね?」
「ほんまやで! やけどあのハゲ店長、シラこい顔して来月も待ってくれるぅー? 言いそやわ。まーそんなんやったら絶対やめたるけどな!」
パートのオバチャンやら大学生なんかが多い中、実際ひよ里は店にかなり貢献しとるし、弁当かてほんまに美味いねんけど。ただ、廃ホールがあるよな辺りの所為か経営は苦しいみたいやんな。50円上がるはずの時給も据え置かれたらしいわ。
「だけどひよ里、白のバイトが落ち着くまではマズイんじゃないの?」
「あーせやった! 3日と持たんなんかザラやからなぁ……まーそんなわけやから真子、」
「……んあ?」
頑張っとってそれやったら、そらやる気も失くすわなぁ思いつつ、珍しくまんま大人しゅう聞いててんけど……そない時に限ってきっちり後悔さしにきよるやんか、こんクソガキめは。
「今年のオマエん誕生日、ウチからは愛情たっっっぷりの『おめでとう』や、喜び」
「おーそらめっちゃ嬉しいなぁ〜……なんか言うてたまるかいボケコラァ! オマ、去年俺になんぼのモン買わした思てんねん!? そもそも何で1ヶ月も前に決定やねん!」
「あの〜……」
そない薄情な口ききよるヤツはお仕置きや! 思てカッカしとるとこ、傍から何や遠慮気味な声に呼ばれた。
「あぁ!? ……って、何や、どないしてん」
くわっ! 振り向いたったら、明らかに『お取り込み中スミマセン』いう顔しよった夏希やったやんか。
「あのさ、ひょっとして真子の誕生日って来月、とか……?」
「えっ……」
「えっ……」
……ヤバイ、かんっぜんにそこは抜けとったわ。
微妙に緊張したよな顔つきで恐る恐る聞いてきよった夏希と、どないな話なってんねんっちゅー焦った顔のふたり。プラス明らかにごっつ訝しんどる松田。計4人分の視線の集中砲火や。
一瞬で平静に戻った俺は、ひよ里に向かうべく上げかけた腰ぃ下ろして、ゆっくり、ちゃんと目ぇ合わして言うたった。
「来月の10日やねんで、夏希」
知り合うて8ヶ月弱。普通なら何で聞かへんねん思う話やけど、こないなる前の俺らには『暗黙のルール』があった。ほんでもって今もまだ、夏希には触れてええ・悪いの線引き出来るだけの情報が無い。
「あー、そうなんだ……」
へぇ〜いうリアクションしつつも、じわじわ綻んで行きよるそん顔には、明らかな安堵と嬉しさが滲み出とる。知らんでも問題はあらへんけど、知りたいか知りたないか言うたら知りたい……しゃーけど聞いてええもんやろか?
そない感じでいててんやろないう夏希の胸中が手に取るよに分かって。ぎゅうううて抱きしめたなる衝動に駆られるんを、胡坐かいた足ぐって握ることで抑える代わりに――
「……ごめんな、夏希」
「あー……へへ、いやこっちこそ割って入ってごめん」
話の見えん皆なが怪訝な顔しよる中、ひとり嬉しそにヘラて笑いよる夏希に、言われへん分もめいっぱい込めて詫びたった。
ごめんな、俺まだ全然足りてへんねやんか。しゃあからもう少しだけオマエの時間もらう我儘、許したってな。
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