新しい隣人 4
玄関へ向かい、女の子が良かったなーなどと呟きつつ、私は鏡で一応の身だしなみチェックをした。洗面用にでかでかと頭項にこさえた団子。フルすっぴんの自分。
……まぁ言っても相手は『お隣さん』だ。最初にこういうオフ状態で会っといた方が、後々何かとラクかもしれない。
片手でガチャとドアレバーを下ろすも、外は思ったより風が強いようで外側から圧が掛かって扉が重い。両手で握り直し、ぐぐっと力を込めて押す。
「ん゛〜……っ!? わわわわっ!」
じわじわと隙間を作っていたところ、突然ガバッと勢い良く開かれた扉。重心の全てをドアに委ねていた私は、案の定バランスを崩し、ド派手に前へとつんのめった。
が、次の瞬間、右肩辺りにグッと力が掛かり、私の視界いっぱいに眩いほどの金色が広がっていた。その金色からほんのり、嗅ぎ覚えのない煙草の匂いがする。
「すんませんなぁ。何や難儀しとるみたいやったからこっちから引っ張ってまいましたわ……」
耳元で聞こえた声に我に返ると、その人の右手には外側のレバー、左手で自分を支えて貰っていることに気付く。その上私ときたら、どさくさ紛れに彼のネクタイをむんずと掴んでいる始末。『藁をも掴む』にしたって相手は初対面。これはひどい。
「うーわ! いやいや、こっちこそすいません!」
慌てて体勢を戻しガバッと頭を下げるも、目の前の彼は「気にせんといて」と人の良さそうな笑みを漏らす。けれど「はぁ、どうも」と意味不明な生返事をしたこの時の私は、完全に彼の金髪に眼を奪われていた。
――例えば。
例えば、この世の技術がどれだけ進歩しても、液晶が肉眼に勝る日など来ないに違いない。この眼に飛び込んで来た『金』。それは、私にそう思わせるのに充分すぎる極上の髪だった。
「平子真子いいますー。よろしゅう頼んますー」
間延びした口調で名乗った、このオカッパ頭の新しいお隣さんは『平子さん』というらしい。……そういえば、さっき聞いた気がしなくもない。
平子さんは「どーも」というように軽く会釈をしてから、うちの表札を指差しながらニカッと笑った。
「ほんで、お宅は川村……何サンなん?」
「……夏希、川村夏希と申します」
ぐぅ〜〜〜
ぼんやりしつつペコリと頭を下げた途端、限りなく残念過ぎるタイミングで私の腹が鳴った。
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