新しい隣人 3
――翌日。
昨夜の自分は、思ったより疲れていたのかもしれない。シャワー後にするつもりだった道具の手入れを忘れ、気付いたら寝てしまっていた。
昼過ぎに愛猫のご飯の催促で目覚め、顔を洗い、とりあえず一服。それから部屋着のゴアパンにタンクトップのままソファに寝そべり、セーム革でハサミを拭き拭き。
ぐう、と腹の虫が盛大に空腹を訴えるも、作るの面倒臭いなーなんて思っていた時だった。
ピンポーン!
「わっ!?」
不意に鳴った大音量のインターホンに、危うくハサミを取り落としそうになった。そうだ、音量調節しなきゃと思ってたんだった。
家での練習や作業の最中、人が来た時に便利だろうと少し前に新調したワイヤレス子機のあるドアホン。音量のことで頭がいっぱいだった私は、通話を押してから液晶に目を遣り、咄嗟に呟いてしまっていた。
「うおっ、キャラ濃!」
……やば、聞こえたかな?
いや、かなりぼそぼそっと言った(つもりだ)し、実際まだマイクは口に近付けていない。一瞬、あ? みたいな目をされた気がしなくもないけど。
しかしこれは、いわゆる『無理もない』というやつじゃないだろうか。鮮明なカラー映像を届けてくれる液晶いっぱいに映った、真っ金のおかっぱパッツン。しかも男だ。今日び、美容業界でもそうは見ない。
というか、およそセールスには見えない彼は何者? そして何用?
「……はい」
「ンッンー……昨日隣に越して来た平子いうもんですけどぉ〜! 引越しのご挨拶に来ましたぁ〜!」
へー引越しの……ん?
液晶に気を取られていた私は、コテコテの西のイントネーションが告げる意味を2、3秒経って漸く、ああ! と理解した。
「……あ! ちょっと待って下さい」
何のことはない。物の見事にこってり忘れていたのだ、私は。
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