重ねる日々 7
「やーっと来たわ、席取っとけ言うといて遅いやないの」
ひよ里と松田、俺と夏希の順に店ん自動ドアくぐったら、見慣れた仏頂面ぶら下げたリサが出迎えよって。
「あーごめん、私が皆なを待たし……ぶっ!」
すかさず夏希が言い掛けてんけど、何や途中で噴出しよった思たら、口に手ぇ当ててクルーっ俺ん背後に回りよった。
「ゴホゴホッ、ゲェッホ!」
あ? 思て肩越しに振り返ったら、明らかに笑い堪え過ぎてむせとる夏希の姿。何やねん、いきなし。
「何ボーッとしくさってんねん、松田! はよ席行くで!」
わっけ分かれへんなぁて片眉上げつつ夏希の背中さすっとったら、苛立ち混じりのひよ里ん声が聞こえた。流れんまま斜め前の男を見てんけど、全機能停止してもうたんちゃうか思うほど微動だにせえへん。ヒョイて首傾けてそん表情覗うたら、真ん前おるリサしか見えてへんみたいな目ぇしとるやんか。
何やこんなん前にもあった気ぃすんなぁ思いながら、未だ息が安定しとらん夏希のこと何となしに見て、俺はピンと来た。
“……おもくそワルイこと考えとる顔なってんで、なっちゃん”
“まーいいから行こうって”
……分からんでもないけど9割好奇心やろな、松田んキャラからして。
「アンタもあたしに見惚れとらんとさっさと奥行き。あ、漫画持って来てくれたんやろな? 夏希」
「ふー……あ、持ってきたよ!」
ポストコ以降リサと夏希が会うたんは、ほんの数回程度。時間が合わへんのもあるけど、どっちかっちゅーとリサまで入り浸ってもうたら本格的に白がフテってまういう、こっちの内情のがでかいやろな。
しゃーけどいつやったか、リサ、拳西、俺、夏希の4人で鍋したった時、見舞いに貰た洋画の感想を夏希が律儀に話し出しよって。
途中の濡れ場について、アート色強うて綺麗やけどエロやないいう意見がピタて合うたらしゅうて、何や異様な盛り上がりを見してん。
まーぶっちゃけ、一緒見た俺の助平心もまるで奮われへんかったし、リサも夏希もいっそ清々しいくらい直球な分、下品ちゅー風には見えん思うねんけど。
“ほな真子とはどうなん、相性ええの?”
“んー相性は謎だけど、でも楽しいよ?”
“普通本人の前で聞くか? 答えるか?”
……まー拳西にはちょびっとアク強いノリやってんやろな。
しゃーけどガキやあるまいし、『好きな相手やから』なんちゅーノロケた誤魔化しなんか間違うてもリサは聞きたないやろし、かといって変に上手いやら持ち上げられても逆に胡散臭なるっちゅーか、何や気色悪い。
しゃーから特に言葉選びよった風もなく、笑顔であっさり答えよった夏希らしい自然なひと言はめっちゃ嬉しかった。
「はいこれ。あと言われてたヘアコロンも入ってるから」
「ああ、ありがと。思ったよりおもろいわ『ご近系』」
……ちゅーワケで、何やかんやウマが合う二人みたいやねん。
中ジョッキ3つとウーロン茶で乾杯したった後、タン、キムチ、野菜盛り、ライスやら、食い放序盤メニューがずらーテーブルに並んだ。
そこでちょっと、露骨にモヤ〜っなってもうたことがあってん。
「……ハァ。さっきから何してんねん、オマエら」
ふと見たら、何や知らんけど夏希と松田が無言で互いの皿に『しし唐』押し付け合うとるやんか。
「いや、今日は焼肉奉行の張さんがいないので……」
「だねぇ……真子とひよ里ちゃんは食べれる? しし唐」
「うぇぇ〜アカンアカン、しし唐はウチもアカンねん! せやけどこんハゲはイケるハズやで。のぉ? 真子」
「んあぁ、まぁ……」
別にしし唐は問題無いねんけど、何ちゅーかその感覚的に慣れた感じのやりとりに、何や知らんけど胸がザワッなってもうた。
今更何やねん、俺。似たよなやりとりなんか今まで何べんも見て来とるし、言うたらひよ里や他んヤツらと俺ん間にかて絶対同しよな空気があるはずやんか。
「……ほんまアカンなぁ」
「どしたの真子?」
額に手ぇやって思わず零してもうたら、えらい不思議そに夏希に覗き込まれた。ほんならそれに続くみたく、松田ん視線まで俺に向いてまう始末。
咄嗟に俺は、テーブル上の空んなり掛けとる箱見て言うたった。
「煙草買い忘れてもうたわ。ちょお買うて来るからジャンジャンしし唐よこしとき」
「は? 何言うてんねん、オマエさっき……っ痛ぁ!」
要らんこと口走りそなひよ里ん足ぃテーブル下でゴン! 蹴飛ばしたって「何やぶっけたんか? アホやなー」やら付け足して俺は立ち上がった。
ひよ里は、何しよんねんハゲ! 言わんばかしにえらい目ぇギラギラさしててんけど、何がしか察したんか口にはせんかった。
――すまんなぁ、ちょっと俺アタマ冷やさなアカンねん。
ここ最近、今まで気になれへんかったもんの見え方がどんどん変わってもうてる。
事情があんにせよ100年テキトーに遊んどった俺ん対して、当たり前に夏希はそれなりに根ぇ張った人間関係を持っとる。そないな違いなんか百も承知で覚悟決めたはずやのに、何やそれがまるで足枷みたく思えてまう時が増えた。
……何や自分がごっつ狭量な男に思えてならんわ。
店からちょい離れたとこでコートんポケット入っとった新しい煙草を開封。ひと口目ぇゆっくり吸い込んで吐き出したら、煙なんか息なんか分からんモンがもわ〜て口から出てきよった。
「ハァァァ……しっかしこんだけ生きても惚れてまうと難儀するもんやなぁ……」
何となしに目で追いながら、それもこれも全部夏希の所為じゃアホンダラ、やら責任転嫁上等でゴチとったら――。
「平子さん」
「うーを、吃驚したぁ!」
「……すいません、ちょっといいですか」
松田が来た。
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