重ねる日々 1
−ほぼ性的ネタ−
――ほんま、えらい女に惚れてもうたもんや。
「……最っ悪や」
「ふっふっふ」
またしても敗北を喫してもうた呆然に腕でデコ覆うた俺を、どや顔でほくそえみながら見下ろしよる、夏希。
……チッ。
「ふふふやないっちゅーねん、こんアホンダラ!」
「んがっ! くしゅいくしゅいくしゅいやめでー!」
2回にいっぺん、いやもっとか?
とにかく俺をこない屈辱に追い込みよる元凶の夏希の腰をむんずて掴んで、せめてもの一矢で『こそばしの刑』に処す。
「あひゃっははっはははっ! がーしむ゛ー!」
「あっ! ちょおアホ、落ちるで!」
耐えられへんっちゅー感じの奇声上げて俺ん上から逃げようなんかして、ベッドから落ちそうんなった夏希の腕ぇ慌ててグイて引いたった。
「あ゛ー死ぬかと思った……」
ゼェゼェ言いながらうつ伏せんままティッシュケースに腕ぇ伸ばしよったものの、
カスッ
「……」
「……」
生憎と夏希の手ぇは、箱ん底を引っ掻くよな音を立ててもうた。
しゃーけど大っきな溜め息と一緒に首ぃガクンさしたんも束の間、「あ、煙草も向こうだ」やら言うた夏希は、マッパんまますぐにベッドから飛び出しよった。
そない羞恥心に欠けた行動も、こんサファリみたいな部屋ん主らしいなぁーやら感心してまう俺は、ええ加減夏希に浸蝕され過ぎなんかも分かれへん。
ちゅーか女ん時の夏希の手強さ思うたら、寧ろそない無頓着さに救われとる気ぃすらするわ。
「あーすまん! 俺もや」
「ほーい」
冷たいフローリングの上を素足でぺたぺた歩く音を聞きながら、俺んとこと同し生成り色の天井ぼやー見つめて思わずひとりゴチてもうた。
「……別腹どころやないっちゅーねん」
――俺と夏希は、やっぱし同類やった。
夏希と初めてセックスしたんは1ヵ月くらい前、例の元旦の夜。
車は母チャンが乗って帰るっちゅーんで電車でアパート戻って、とりあえず夏希の部屋で寝て、起きて、飯食うて、一服して、キスケと遊んで。
正月番組まったり見ながら酒飲んで、何となしにちゅーして、流れんまま何となしにソファで脱がしてみた、わけやねんけど。
「……夏希オマエ、こん先太っても痩せてもアカンで」
「なっ……はいぃっ!?」
思わずそない無茶ぁ言うてもうたほど、夏希は俺ん予想を遥かに上回る絶妙にバランスええ体しとって。ちゅーても俺かてだてに『ワンプレー主義』やら言われて来たわけやなし、スタイルええ子とお手合わせしたことかてそれなりにはあんねやけど。
「ねぇ真子って『やっぱ』S、なの?」
「んあ? まーノーマルの範囲や思うけど、Mやないんは確かやな」
そう答えたったら、覆い被さった俺んネクタイ解いとった夏希の手ぇがピタて止まったやんか。
「……『やっぱし』、オマエもかいな」
「はは、そこは一緒じゃなくていーのにねぇ……」
苦笑しよる夏希がどないなもんか興味沸いて、ほな好きにしてみ、やら言うてもうたんが大っきな間違い。
「うわ、余裕だねぇ」
「アホ、レディファーストや」
「あはは、そりゃどーも」
そないに言うて笑いよった夏希は、まるで物怖じもせんと、そん絶妙な体でもって俺んこと組み敷いて「重い?」やら聞いてきよった。
「アホか、オマエ俺に2回担がれてんねんで?」
「あ、そっか……へへ、久しぶりなんでお手柔らかに」
ちょっと照れ臭そにそんなん言うて俺に唇合わしてきよった夏希を、ヤバイ! コイツかわいい! なんか思たんは、いや、思える余裕があったんはここまで。
同属ちゅー意味で相性ピッタシは言われへんやろうけど、これぞ曲線の造形美っちゅーラインを下から眺めるんは最高やったし。ほんま大事そに俺ん髪を触る手つきも、そら反則やろっちゅーぐらい意識持ってかれてもうたし。
煩く喘いだりせん代わりに、艶っぽい目ぇで俺んこと眺め下ろしながら、時折抜けるよな吐息混じりに漏らしよるちょっと低い声も、俺を扇情するんに充分やったけど。
……ちゅーか。 どの口が『お手柔らかに』抜かしとんじゃい、ボケが!
「……ちょお待て」
「ん?」
「ふー……」
ニヤリ。
「うーを! ちょお待てや言うとる、や、ろ……がはっ……」
平子真子、現世歴100年ちょい。記憶サルベージした限り自分史上最速の大不覚。
……チッ!
「オッマエ、マジでふざけんなやぁ!」
ゴロン。
「うわ、ちょ待って休憩なしとか! こちとらぼちぼちアラサーだって!」
「アホか! 俺ん方がオッサンやっちゅーねん!」
「あ、そなの? ……じゃなくってビッグバン起きるって!」
「やかまし! こないけしからん腰なんか砕けてもうたらええねん!」
さんざヤイヤイ言い合いながら(夏希にマウントは取らせんと)しっかりリベンジしたったけどな。
俺かてそこそこ久しぶりやっちゅーねん! やら、喜助ん義骸技術が高すぎんねん! やら、自分へのそれっぽい言い訳のしようがあったんはこの1回きり。
以来、主導権賭けたバトルゲームみたくなってもうた夏希とのセックスは「楽しい方がええ」言う夏希らしいっちゃらしいし、ぶっちゃけまー俺も楽しいねんけど。
しょーもない見栄やら何やらのメッキ剥がされるみたく、二人ん時にどない俺がカッコつけたろなんか思うても無駄なんやて、つくづく思わされる。
本気で俺の人格下げるよなことしたり言うたりは、絶対せえへんっちゅーのが分かっとるだけにな。
プラス、まー負けてもええか思うてまう、密かな楽しみがあってん。
「うぅー向こう寒かった……」
「あー暖房切ったんやったな」
右手にマグや煙草が乗ったトレー、左に新しいティッシュん箱持った夏希が、首ぃすぼめて足すり合わしながら戻ってきよった。
差し出されたティッシュでちゃっと後処理して、両手で持ったマグふーふーしながら縮こまっとる夏希の冷えた体擦ったって、白い毛布に二人で包まって、一服。
控え目な加湿器の音。ほど良く湿度の高い、ぬるい部屋。
紫煙 自堕落 淫靡 アンニュイ
俺は、このヤった後の余韻みたく不健全なモンが充満する、何やダラッとした空間がわりかし好きで。それに呑まれへん凛とした空気纏いつつも、気だるく煙草を燻らしよる夏希の顔が、下手したら最中のそれより好きやった。
今まで『夏希の一部』っちゅー感覚でおって、コイツの前の男にこれちゅー感情も沸かへんかった俺やけど。
色んな子らと遊んだ俺ん場数をも凌ぎよる夏希のテクは、そいつとのマンネリ防止的な向上心の賜モンかもわからんワケで、そん度にこん体と顔を堪能しとったんかぁ……なんか思うと、流石にちょっと妬けてまう。
「なぁ、後で髪ぃ洗うたってや」
「え、いいの?」
「……いや頼んどるん俺やし」
しゃーけどそないな感情の沸く自分を小気味ええ思うてまうくらいには、俺は夏希んことが好きで。
ジャー……
「真子のピアスって反則だよねぇ」
「オマエん腰のが反則じゃボケ!」
そん想いが日増しに深なってく一日一日を、絶対忘れたない思うようなった。
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