こんな日常



人間、というのは一定的に繰り返される物事を嫌う生き物だ。

別にそれは、トイレだとか睡眠だとかではなく、そう、言うなれば、日常と呼ばれるものを嫌う。

かくいう牧野も、毎度毎度、朝起きて、聖書を読み、寝る、の繰り返しの毎日にはウンザリしていた。

「はぁぁぁ」

溜め息を一つ、誰もいない聖堂で吐き出すと、ふと思い出したのは、たった一人の弟……と呼んで良いのか分からないが、同じ血を流す弟である宮田の顔が思い浮かんだ

―そういえば、もう1ヶ月近く宮田さんに会ってないなぁ…

別に、牧野はしょっちゅう宮田に会っているわけではないが、やれ神代の使いやら、やれ祭典やらで、なんやかんや顔を合わせてる
だから1ヶ月近く続くのは、けっこう珍しい事態だった。

考えるとだんだん会いたくなってきたが、宮田は医者だ。
患者でもない自分が会いに行くのは、迷惑なのでは、というネガティブな考えが浮かんでくる為、宮田のことを忘れるように努めた

しかし、いかんせん、忘れようと思えば思うほど、頭の中がどんどん彼で埋め尽くされて、会いたい気持ちは募っていくばかりであった。

「はああああああああ」

先ほどより大きな溜め息を机に突っ伏しながら吐き出すと、それは、教会の中で小さく反響した。

その反響が余計寂しさを倍増させて、牧野は更に沈んでいった。

このままでは後悔する、宮田さんには申し訳ないけど、久しぶりに宮田医院に行こう。
そう思い牧野が顔を上げようとする

直前

「悩み事ですか牧野さん」

頭上から自分によく似た、しかし、自分よりも低い声が降ってきた

「宮田さん…?」
「なんですか」

そこにいたのは、さっきからずっと、会いたいと願っていた、宮田本人であった。

牧野が、いつも通りの無表情を浮かぶ顔をまじまじと見ていると、不愉快だと言わんばかりに、宮田の眉間に皺がよった。

「す、すいません…その、宮田さん、どうしてこちらに……?」

せっかく会えたのに、機嫌を損ねて帰られては、嫌だった牧野は話をそらす作戦に出た

別に、わざわざ聞かなくても、神代の使いだろうと、想像はつく。

つく、はずだった

「用がなきゃ来れないほど、教会というのは心が狭かったんですね」
「そんなっ…………って、……………へ…?」

トゲトゲしい言い方に惑わされそうになったが、宮田が用もなく教会を訪れるなんて初めてのことだ。
いつも、神代の使いか、急患か、儀式についてか、会うときには必ず用事を持っていた

牧野が呆然と宮田を見ていると、宮田はふてくされて踵を返す

「別に、来ちゃいけないなら帰りますけど」

そういって本当に帰ろうとするのを、牧野が腕を掴んで止める

「そんなことありませんっ!!その、別に来ちゃいけないとかじゃなく、ただ、宮田さんが来てくれたのが嬉しくて、えっと、あの、えーっと……そうだっ!!た、たまには、世間話でもしましょう!!」

教会に声が小さく反響した

その反響に寂しさは無かった

きっとこのあと、牧野の必死の弁明に宮田が苦笑するだろう。
そして、二人は下らない世間話をする。
最後にはまた明日と言って別れて、
これからは、世間話が二人の日常になるのだろう




ああ!こんな日常なら
       



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