謎の戯れ




side:宮田





特になんという訳でもない。


別段、害があるわけでも、ましてや得があるわけでもないのだから、
彼がここにいても、自分にはなんら問題はない。


むしろ気にしたら、最後、自分の今日の1日のサイクルは崩れるだろう。


そう。
普段通り、仕事をこなせば良い


良いのだが、



「どうして、いらっしゃるんですか……………犀賀先生……」



やはり、存在するモノは気になってしまう。


いつの間にか、人のベッドに我が物顔で座っていた彼は、なかなかの威圧感を醸し出している。


関わればロクな結果にならないことは分かっているのに、話しかけてしまった。



「………………特に理由はないな。」



(…………本当なのか、嘘なのか…)


一拍置いて、彼は答える。

自分同様、いやそれ以上に会話をするのが嫌いなこの人は、とにかく何もかもがテキトーだ。

話が短く終われば後は何でも良いと考えているのではないかとすら、思えるほどに。


だから、本当に彼が、理由も無くここ―――俺の家にきたのかは、
それこそ彼自身と、牧野さんがよく言う神サマくらいにしか分からない。



「…………コーヒーかお茶、いりますか?」



このまま無視をして、作業をしたところで、はかどらない事は目に見えている。


今日は、この目的の読めない男の相手をするしかないと、諦め、ベッドの方を向いて、聞く。



「あー……………コーヒー」



何を悩むことがあるのか。
ここに来られて、何が良いか聞けば必ずコーヒーと返してくるのに、毎度毎度悩んでから彼は答える。



「分かりました。」


立ち上がって、台所に向かう。

と、彼までのそのそと付いてきた。



「…………犀賀先生、部屋でお待ち頂いて構いませんよ?」

「お前、気まずいんだろ」



見透かされたように言われて、うっと言葉に詰まってしまった。


彼と自分では、会話が長く続くわけがない。
石田さんや、牧野さんと一緒の時は、あちらから無駄に話題を提供してくるせいか、会話は長く続くのだが。

重苦しい彼との沈黙は、嫌いではないが苦手だ。



「…………あなたと違って、沈黙が気にならないほど、神経図太くないですからね」



自分の思考回路が彼に筒抜けな気がして、何となくイライラする。

挑発的に言葉を返せば、また、見透かしたようにこちらを見てきた。



「そうイラつくな、まったく……………」



(あんたが苛立たせてるんだろうがっ!!)



完全にあちらのペースに乗せられる。

埒があかない為、深呼吸をして、自分の心を落ち着ける。



「犀賀先生、直ぐ終わりますから、待っていて下さい………」

「ああ、分かった。」



そう言って肩をグイと押すと、案外あっさりと彼は部屋のある方向へ歩き出した。

結局は、俺がイライラするのを彼が楽しみたかっただけなんだろう。


なんて大人気ない人なんだろうか。







「………………はぁ」



思わず、溜め息が零れる。


コーヒーと、自分用にミルクティー淹れて部屋に戻ると、当然のように彼は、本棚を漁っていた。

………だいたい想像はしていたが、やはり呆れてしまう。



「……………犀賀先生」

「どうした、宮田。」



溜め息混じりに彼の名を呼ぶと、本棚から視線を逸らしてこちらを見る。

自分とよく似た、するどい視線と目が合う。



「勝手に人の家を漁らないで下さい。」



彼が手にしていた本を取り上げて、元の場所に戻す。

空になった手のひらに、コーヒーが入ったマグカップを載せて、彼が本をまた取ろうとするのを防いで、自分も机の傍にある椅子に座る。



「旨いな。」

「…………はあ。」



ゴクリと一口飲んで、感想を零した。
あまりにも、あっさりとしていたせいか、素直に受け取れず、生返事に終わってしまう。



また、会話が無くなる。



と、再度彼の手が本棚に伸びる。



「犀賀先生っ!!」



見られて困るものは無くても、自分の部屋を漁られるのはあまり気持ちの良いものではない。

少し強めに彼の名前を呼ぶと、彼は不機嫌そうな顔でこちらを睨んだ。



「……………暇だ。」

「私にどうしろと。」



それなら、銃の手入れなり何なりしてすごせ。

こっちを巻き込まないでほしい。



「暇だからここに来たんだろうが。」

「俺は良い暇つぶしの道具ですか…………」



やっと、彼が来た理由、というほどでもないが、それがわかった。

暇だから来るとは、ここは保育所でも、老人ホームでもないんだぞ。


本当にあきれる。


「はぁ………ほら、キスしてあげますから、本棚漁るのは止めて下さい。」

「ん……しょうがないな。」



手招きして彼を呼び寄せる。

あちらは立ち上がって、こちらは椅子に座っているのだから、当然見下ろされる形になる。


高い位置にある首に腕を回して、キスをすると、気を良くしたのか、その気になった彼は、マグカップを机に置いて、髪を触ってきた。

くすぐったいその感覚に思わず、眉間の皺が寄る。



「しませんよ、今日は。」



念を押すように、彼に告げると、
ニヤリと笑った顔が目に飛び込んできた。



「ここまで誘っておいてそれは無いだろう?宮田。」



ああ、これだから、彼と関わるとロクな事が無いんだ。




 謎の戯れ
  



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