バカ時々デレ




期待、っていう言葉が無駄だってことは知ってます。


だって、せんせぇは昔っから、初めて会った時から期待だけ持たせるのが得意でしたからっ!!


罪な男っていうのはきっと、せんせぇの為にある言葉。


そう。だけど!
私はせんせぇが大好きなんです!


だから時々は、期待通りの行動をしてほしいんです。











「よいしょ………っと…」


カタン
すこし背伸びをして、無理やり高い本棚に本を押し入れると、軽い音が部屋の中に響いた。


特別史料室。
大学の特別な史料を扱ってる部屋だからか、この部屋の中には人っ子ひとりとして居ない。

静かな空間で私が読んでいる本と言えば、神話や聖書や、世界中の民族についての本だとか、とにかく色んな本である。

いつもは先生大好きな私だって、キチンと勉強はする。

半分趣味な所が多いけれど、こうやってしっかり勉強をして、優秀な成績で卒業して、先生の助手としていつかは働きたい。

だって、そうしたら、ずーっと一緒に先生といれるし!

4年生になると、卒業論文というものが待ち構えている訳で、この時期はみんな大忙し。

かくいう私も、とりあえずは、卒業の為に、論文の史料探し、もとい面白い本探しをしていた。


3冊くらい読んだところで、欲しくなるのは絵のある本。

つまるところ漫画が読みたい。


こんなことなら、何か漫画の10冊や20冊持ってくるべきだったなぁ。


寒い外とは違って、暖房のよく効いたあったかい部屋にいたら、だんだん眠くなってきた。


趣味の漫画もアニメも無ければ、その眠気と対抗する武器は何も無いのと同じ。


木の棒でラスボスに挑むのと同じようなものだ。


誘われるがままに目を閉じて、私は眠りの体制に入ろうとする。

時だった。




バンッ!




突然、扉が開く音が大きく室内に響いた。


ビックリして扉の方を見ると、汗だくで顔を青くさせた先生がいた。

先生は、息を乱しながら、疲れたようにズルズルとドアを背にして座り込む。


さすが先生!汗だくでもカッコいいー。



「せんせぇー?」

「うわぁぁぁぁぁああぁぁ!!!!?」



私が声をかけると、先生はものすごい速度で後退した。


「な………なんだ…安野か……………」

「なんだ、って何ですかー?どういうことですか?っていうか、先生どうしたんですかー?マラソンでもしてきたんですか?」



私の顔を見ると安心なのか、何なのか、ため息を一つついて、先生は立ち上がった。

腰に手を当てて、眉根を寄せながら、乱れた前髪を鬱陶しそうにかきあげる姿は、
どこかの映画に出てくる噂のイケメン俳優!みたいな格好良さがある。


あー、写メしたい。


「一気に質問を投げかけるな。というか、私がマラソンをしていると、お前は本当に思っているのか?」

「いえ、全然思ってないでありますっ!!」



マラソンなんて面倒くさいもの、もし先生がやってるとしたら、それは罰ゲームか何かな気がする。

けど、じゃあ



「何してたんですか?」


竹内先生が走る、っていうことは、また先生、学会に発表する論文か何かの提出が遅れてるのかな?


私の質問に、先生はふぅと思い溜め息と一緒に、疲れた雰囲気で答えた。



「…………女生徒に追われててな。」



おー、納得。


先生は、確かに発想や趣味こそ、学会内で異端児扱いされるほどの変人なのに、女生徒には無駄にモテる。


どうしてって?
なんてったって、イケメンくおりてぃっ!!

先生のかっこよさなら、どんな子だってついてっちゃうに決まってる。



「せんせぇー、良いんですかー?そんな風に女の子ないがしろにしてー」



別にそんなこと微塵も、これっぽっちも、全くもって、思ってないけど、とりあえず言ってみる。



「私の心配はなしか」

「えー、せんせぇの心配もちゃんとしてますよー?私ー。」



まったくー、先生は。
むしろ、先生のことしか私は考えてないっていうのに。



「家に帰りたい……」

「また、そういう引きこもり的な発言してー。」


家に帰ってやる事と言えば、文献を読むか論文を書くかくらいしかないのに、こうやってマイナス発言をするのは、先生の悪い所な気がする。


私が、先生に説教をしてあげようと口を開くのと同時に、ドアの外から、バタバタと大きな足音が聞こえてきた。



「先生ー、多聞先生ー!どこにいるんですかー?」


女の子の声が、ドア越しに響いてきた。



「……………!!!」



先生がびくりと体を震わせて、顔を青くさせる所を見ると、多分追っている女生徒っていうのは、この声の主なんだろうなぁ。



「せんせぇ?」



何も反応の無い先生が心配になって、顔を覗き込んでみた。


「ダメだもう。というか、どうしてあの女生徒は、私を追いかけるんだ。何か恨みがあるのか。もしかして、私のこと学会で変人扱いをされる、不思議人間として物珍しいからという理由で来てるんじゃないだろうな。また、こうやってお父さんとお母さんの肩身が狭くなっていくんだろうな。そうだ。私は親孝行もできないのか。無理だもうダメだ死のう。これじゃあオレも用無しだ………。」


…………先生、見事にネガティブルートにはまってる。
なんか、羽生蛇村にいたお医者さんみたいなこと言ってる。



「ああ、そうだ。むしろ殺られる前に殺るのはどうだろうか………」

「せんせぇ、思考回路が怖いです。」

「反省はしている、後悔はしていない」

「反省はするんだぁ。」



先生、真顔で殺人予告すると本気に見えて怖い。

っていうか、明らかに本気の目をしている気がする………

女生徒は、まだこの辺をバタバタと忙しなく走り回ってるみたいで、時々足音が聞こえる。


先生はその度に、ビクッと肩を震わせて、私の後ろに隠れる。


「安野、今なら千の風を歌えるぞ」

「今は嫌ですー、っていうかせんせぇ落ち着いて下さいっ!!」


たかが女生徒相手にここまでビビる先生は、みんなから定評のあるツンデレ、クーデレ、イケメン属性の前に、実は隠れヘタレな気がしてならない。


まあ、なんていうか、可愛いと言ってしまえば、可愛いのだけど、絡みづらいと言ってしまえば絡みづらい。



「せんせぇが静かにしてれば、あっちもいなくなりますから、大丈夫ですよ。」

「そ、そうか………そうだな」



やっと冷静になった先生は、私の後ろにまだ隠れつつも、黙ってドアを睨みつけている。

と、足音が近づいて、ドアの近くで止まった。


ゴクリ、と先生が息を呑むのが分かった。


…………先生、女生徒を魔物か何かと勘違いしてないかな?


少しすると、諦めたのか、足音は遠くなって行った。


「た、助かった…………」


安堵の溜め息をついた先生は、私から離れてしまった。


ちょっとだけ、もったいない気分。



「せんせぇ、焦りすぎなんですよー。とって喰われる訳じゃないんですからー。」

「いや、あれはとって喰うつもりの目だった。」



どれだけ恐ろしい目をしてたんだろう……

っていうか、


「私だって、あれくらいせんせぇにくっ付いて歩いてるのに、どうして逃げてるんですかー?
あれですか?ツンデレみたいな感じで、実はあの女生徒が好きみたいな感じですか?
私はそんなツンデレせんせぇも大好きですよ!」

「何を言ってるんだお前は。」




先生に向かって得意のマシンガントークで一気に言うと、バカか、みたいな顔で見られた。


むぅ……さっきまであんなに、ビクビクして取り乱してたくせに…


「…お前はむしろ、ひっつき過ぎて、いない方が違和感があるだろう。」

「……………………」

「……………………」

「…………………………えー」

「何で不満げなんだ。」


……………。

なんだろう。

なんていうか、ちょっとだけ嬉しい。

つまりは、一緒にいるのが自然な関係ってことだよね?


先生と私が。



「それ、褒め言葉なんですかー?貶してるんですかー?」

「褒めてはいないな」


………褒めてはいないってことは、貶してもいないってことだよね?


なんか、顔が熱くなる。


今日の先生はちょっとテンションがおかしい。


良い意味でおかしい。


いつもは、期待通りの言葉なんて返さないくせに、今日は期待以上の言葉を返してくる。


あー、なんか、恥ずかしい!


先生、絶対こっち見ませんように!


「せんせぇ、デレ期ですかー?」


赤い顔を見られないように、少し、目をそらして言う。


なんていうか、このデレ期は萌だなぁ。



「…………少し黙っていてくれないか」

「わぁー、せんせぇツンデレーっ!!」



とりあえず、なんだかすごく、恥ずかしいから、いつもみたいに先生に絡んでごまかそうと思います。





バカ時々デレ
    



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